2023年、東京都あきる野市に住む山本伯画(40歳)が逮捕された。容疑は、家で男児に暴行をして重傷(その後死亡)を負わせたことだった。被害者の男児は、山本と血のつながりがなく、山本が交際していた女性の息子だった。
この女性が男児を産んだのは5年前。当時は別の男性と籍を入れて暮らしており、一時期は仲睦まじかったという。しかし関係が悪化して男性の方が家を出て、女性と男児が残った。その後、女性はネットで山本と知り合い、恋仲になると家に連れ込むようになる。家で山本は父親のようにふるまい、男児に厳しく接していたようだ。
山本と男児の間に事件が起こるのは今年の2月のことだ。山本は「注意したのに反省しないから」という理由で男児に暴行を加えた。これがきっかけで男児は意識不明の重体になり、3月に死亡したのである。
これまで私はルポ『「鬼畜」の家~わが子を殺す親たち』(新潮文庫)などで様々な虐待死事件を取材したが、養父、あるいは母親の内縁の夫が虐待をする事件は後を絶たない。
なぜ、彼らは血のつながっていない子供に暴力をふるうのか。
虐待における養父の存在について考えてみたい。
《児童虐待の3人に1人は養父や内縁の夫が加害者》あきる野市5歳児死亡、目黒区5歳女児虐待死だけではない。児童虐待事件における養父の存在
今年に入り、連日のように幼い子供が虐待死する事件が起きている。3年で倍増した児童虐待の実情について作家の石井光太氏は「養父や内縁の夫」が加害者になるケースの多さを指摘する。
「注意したのに反省しない」から暴行
児童虐待における加害者の3人に1人は養父
虐待事件において、養父や内縁の夫が加害者になるケースは昔から一定数を占めていた。
警察庁の「令和3年版犯罪白書」によれば、児童虐待にかかわる犯罪で検挙された人のうち、「父親等」が71.4%を占めている。この父親等のうち「実父」の63.9%に対し、「実父以外の養父や母親の内縁の夫」が36.1%を占めているのだ。実に3人に1人が血のつながりのない父なのだ。

出典「令和3年版犯罪白書 児童虐待に係る犯罪」
さらに「強制性交等」になると、この傾向は顕著になる。全加害者のうち実父が47人に対し、実父以外の父親的立場の男性が72人と有意に高くなるのだ。なぜ男性は、血のつながりのない子供に暴力を振るうのか。30年近く児童相談所に勤務する男性職員は次のように語る。
「一番よくあるパターンは、母親が未熟であるケースですね。そういう女性が若いうちに離婚してしまうと、真っ当な仕事に就くことが難しく、キャバクラや風俗店などに流れることが多いです。彼女たちはそこで知り合う男性と恋仲になって家に連れ込むのですが、えてして男性の方もタチが悪く未熟です。そうしたことで虐待が起きてしまうという流れがあります」
全体的に見れば、夜の街で働く男性でも、恋人の連れ子を寵愛する人の方が多いだろう。私自身も取材の過程でそんな養父たちの深い愛情を何度も見てきた。
しかし、虐待現場だけに光を当てれば、残念ながらこうした現実が一定数あるのも事実だ。
私自身が取材をしていて感じるのは、男女が深い愛情ではなく、まったく別の目的でつながっている場合に、虐待が起きやすいということだ。
たとえば、男性の側が金銭や違法ドラッグ目的で女性と付き合っているケースがある。風俗店で働いている女性の金を目的に家に転がりでこんでいる男性や、女性を覚醒剤づけにして性の玩具としている男性だ。
過剰な依存精神が事件を引き起こす
こうした男性たちは、女性への愛情がほぼないので、その子供への愛情も抱きにくい。だから、子供を邪魔な存在だと考え、気に入らないことがあれば、簡単に手を出したり、女性にもそれを求めたりする。
また、最初は男女が睦まじい関係であっても、だんだんと仲が悪くなることもある。こうした中では、男性が女性を憎むうちに、その子供にも同じように憎しみを抱いて、暴力をふるうことがある。子供を憎い女性の分身のように捉えてしまうのだろう。
先の児相相談所の職員はつづける。
「両親の仲がいい状態にあるからこそ起こる虐待もあります。たとえば、男性の方が過剰に女性に依存しているケースですね。こういう男性は、女性が子供の世話をしていることに嫉妬しがちです。どうして俺より子供を大事にするんだと逆恨みする。それが子供への暴力を引き超すのです」
これもしばしば取材現場で遭遇するケースだ。
男性が子持ちの女性に愛情を抱いて一緒になったとする。それまで外で二人で会っていた時は、女性は男性に尽くしていたが、家庭では母親となるため、どうしても子供の方に時間もお金もかけようとする。
未熟な男性は、こうしたことが許せない。なぜ自分が軽んじられるのだと憤慨し、子供を逆恨みするようになる。それで直接手を上げたり、無理やり女性を子供から引き離そうとしたりする。
また、その逆の例もある。私が『近親殺人―そばにいたから―』(新潮社)で取材した事件では、女性が夫への想いを膨らますあまり、小さな子供をマンションの窓から投げ落として殺害した事件があった。ひとつひとつの事件をみれば、男性ばかりでなく、女性が加害者になるケースもあるのだろう。
寝る時間も食べ物も与えられずに衰弱死
さらに別のケースとして、先述の児童相談所の職員は語る。
「あまり知られていませんが、男性が血のつながっていない子を一人前に育てようとするあまり体罰をするケースも時々見ます。勉強や習い事や行儀など日常の細かなことにまで口出しし、暴力を振るったり、束縛しようとしたりする。この場合は、男性は自分は子供を教育しているのだと考えており、虐待の自覚がないので、解決が厄介です」
私がルポした中で思い出すのが、2018年に起きた目黒区5歳女児虐待死事件。5歳の船戸結愛ちゃんが殺害された事件だ。犯人の雄大(当時33歳)は、キャバクラで知り合った結愛ちゃんの母の優里(同25歳)と結婚した。雄大は初婚、優里は再婚だった。新しい家庭で、雄大は養父という立場で結愛ちゃんを育てることになった。
結婚にあたって雄大は問題を抱えていた。実家の親から子持ちの水商売の女性と籍を入れることを反対されていたのである。まともに子育てができるわけがないと見なされていたらしい。
雄大はそんな事情もあって、血の繋がっていない結愛ちゃんをエリートに育てようとした。そして毎日のように体重管理をし、寝る時間さえ奪って勉強をさせた。結愛ちゃんを一人前にすることが養父としての自分の役割だと信じて疑わなかったのだ。
だが、雄大のする「しつけ」は、生来のプライドの高さや常識の欠如ゆえに暴力となって結愛ちゃんを苦しめた。そして結愛ちゃんはダイエットと称してほとんど食べ物を与えられないまま衰弱死したのである。

写真はイメージです
裁判の中で、雄大は亡き結愛ちゃんに対してこんな言葉を発した。
「親になろうとしてごめんなさい」
増え続ける児童虐待件数と離婚・再婚件数
この事件ほどでないにせよ、男性が「再婚相手」という自分の立場に劣等感を抱いたり、養父だからこそ人一倍がんばらなければならないという強い思いで、血のつながっていない子供に厳しく当たったりすることはあるだろう。
だが、子供はそれを親の愛情とは受け取らない。子供にとっては暴力でしかないのだ。
すでに述べたように、私はほとんどの養父らは血のつながりとは関係なしに深い愛情を子供に注いでいると考えている。ただ、ごく一部の人間は、ここで見てきたようにそうではないこともある。

出典「令和3年版犯罪白書 児童虐待に係る犯罪」
日本の離婚件数が毎年20万件前後に及び、再婚件数も15万件前後になっている今、そうしたことを一段深く考える時期にきているのではないだろうか。
取材・文/石井光太
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