激突シーンの凄惨さを物語る、
14分という異例のアディショナル・タイム
佳境を迎えているカタールW杯。日本代表は惜しくもベスト16で涙を呑んだが、国の威信をかけ、国民の期待を背負い、文字通り“命懸け”でプレーする選手の熱いプレーに、心を動かされた人も少なくないだろう。
ただ、 “命懸け”でプレーするからこそ、試合のインテンシティ(激しさ)は非常に高くなる。それゆえ「危険なプレー」がより起きやすくなってしまうのも、W杯の特徴の一つである。今大会で見られた、“あわや大事故”となり得た危険なシーンを振り返る。
1. イランGK、味方DFとの接触でプレー続行不可能に
11月21日に行われたグループBのイングランド対イラン戦。前半7分、イングランドFWハリー・ケインが右サイドから鋭いクロスを上げると、イランGKアリレザ・ベイランヴァンドは勇気を持って飛び出し、右手1本でそのボールに触れる。その際に味方DFマジド・ホセイニと勢いよく正面衝突してしまい、両者はピッチに倒れこんだ。
比較的すぐに立ち上がったホセイニに対し、ベイランヴァンドはなかなか起き上がれない。彼の鼻は大きく腫れ上がって出血。止血や安全確認も含め、ピッチ上での緊急治療が10分以上続けられた。解説(ABEMA中継)の戸田和幸氏も、プレー続行可能か否か、メディカルスタッフの判断の難しさを指摘した。
ベイランヴァンドはその後立ち上がってプレーを続けるものの、再度ピッチに倒れ込み、自ら交代を要求。GKホセイン・ホセイニと代わって退いた。今大会、「通常の交代枠とは別に、 “脳震盪による交代”が1人のみ可能」というルールが設けられており、それが初めて適用されるケースとなった。
一連の治療による中断の結果、前半終了間際に表示されたアディショナル・タイム(AT)は14分という異例の長さとなった。守護神ベイランヴァンドの途中離脱が響いたのか、6-2のイングランドの圧勝でこの試合は幕を閉じた。