南米の吸血鬼&戦術オタクな頑固ジイさん
5. ルイス・スアレス
最後はこの男。W杯初代王者ウルグアイのレジェンド、ルイス・スアレスだ。
1987年1月24日生まれの35歳で、ウルグアイ代表の最多得点記録保持者であり、オランダ、イングランド、スペインのリーグで得点王を獲得してきた。
ヘディング、ミドルシュート、FKなど、どこからでも得点を狙える生粋の点取り屋。仲間を活かすアシスト能力にも優れ、バルセロナ時代はメッシと黄金のコンビを形成した。“ストライカーとしてのエゴ”と“チームプレイヤーとしての献身性”を絶妙なバランスで併せ持った、類まれなる選手だといえる。
卓越したプレーだけではなく、後に語り草になる“珍プレー”もスアレスの魅力の一つだ。最も有名なのは、2014年のブラジルW杯でイタリア代表DFのキエッリーニの肩に“噛み付ついた”事件だろう。ちなみこれは彼にとってキャリア3度目となる噛み付きで、とある英ブックメーカーでは「W杯期間中にスアレスが誰かに噛み付く」という条件のオッズが175倍で設けられていた。(実際にこのベッティングで勝利した人もいたようだ。)
今季から活躍の場をスペインから母国ウルグアイに移すなど、キャリアが終盤に差し掛かっていることは間違いない。全盛期の“キレッキレ”なプレーは難しいだろうが、一瞬の閃きでゴールを奪う姿に期待したい。
6. ルイ・ファン・ハール
番外編として、オランダ代表の監督を務めるルイ・ファン・ハールを紹介したい。
1951年8月8日生まれの71歳で、カタールW杯に出場している32カ国の監督の中で最年長となる。アヤックス(オランダ)を指揮した1994-95シーズンには、リーグ戦とチャンピオンズリーグの両方で無敗優勝を成し遂げるなど黄金時代を築き上げた。その後、バルセロナやバイエルン・ミュンヘンなど、各国のビッグクラブを渡り歩いた名将だ。
サッカー界屈指の戦術家だが、それゆえに選手個々よりも戦術や組織を優先しすぎる傾向があり、多くのスター選手との軋轢が噂されてきた過去を持つ。ただ、アンドレス・イニエスタやトーマス・ミュラーを下部組織からトップチームに引き上げて重用するなど、若手の才能をいち早く見抜く慧眼の持ち主でもある。
2016年にマンチェスターユナイテッドの監督を退いた後、サッカー界から引退していたものの、2021年にオランダ代表監督として電撃復帰。過去にもオランダ代表を指揮したファン・ハールにとって、今回は第3次政権の集大成となる。
今年4月に前立腺がんを患っていることを明かした71歳の御大は、おそらく自身にとって最後のW杯となる今回、母国を“悲願の初優勝”に導くことができるだろうか。
取材・文/佐藤麻水
写真/アフロ