東京駅の地下には核攻撃にも耐えられる
『鬼滅の刃』の無限城のような施設がある!?

最後に伺ったのは、安倍元首相の銃撃事件から連なる国葬にまつわる陰謀論だ。

「陰謀論者というのは、大きな出来事があればなんでも自分が好きな陰謀論とつなげてしまう傾向があるのですが、安倍元首相の銃撃事件は相当なショックだったようで、ぶっ飛んだ陰謀論が飛び出しました。

それは“東京駅の地下にある宗教施設には子どもたちが誘拐されている。国葬の本当の目的は、厳重な交通規制を行っている間に、善の勢力が地下から子どもたちを救出するためのものだった”というものです」

いまいち意味がわからない陰謀論だが……。

「一部の日本の陰謀論者は、とある宗教団体は秘密の研究施設を持ち、日本のメディアを支配している闇の組織だと考えています。そんな彼らを倒そうとする善の勢力が表向き国葬ということにして、地上への出口や地下通路を封鎖して、一大作戦を行ったというのです。

この陰謀論がおもしろいのはこのあと。

なんと、あるチャットアプリ内でこの陰謀論が広まったところ、その施設は漫画『鬼滅の刃』に登場する、上下の概念がなく、内部構造を自在に変化することができる無限城のような施設なのでは? とするコメントが寄せられたのです。
そして、それを別の陰謀論者がブログで取り上げたことで、最初からとある宗教団体が無限城のような施設を持っていたということになったのです。

「東京駅地下には『鬼滅の刃』の無限城がある」「ブラジャーワイヤーで発癌」 SNSで大バズり中の “ヤバすぎトンチキ陰謀論”3選_3

さらに、この陰謀論は進化し続け、最終的に“東京の地下には無敵の鉱物・オリハルコンで覆われているため核攻撃にもびくともしない『鬼滅の刃』の無限城のような施設がある”という、国葬とはまるで関係ないものになってしまいました」

ここまで大胆な変化を受け入れる陰謀論者の想像力の豊かさには凄まじいものがある……。

最後に、雨宮氏にどうして極端な陰謀論が生まれるのか分析していただいた。

「快楽は理性に勝るからでしょうね。コミュニティ内で“世界の真実”を語り合うことでアイデンティティを獲得し、“世界の真実”を知っていることに優越感を覚え、それがもたらす脳内麻薬の中毒になってしまうのでしょう。

ごっこ遊びと構造は似ていますが、『自分が見てきた現実は全部嘘で、こっちの方が本当なんだ』と、“ごっこ”を“本気”にすることで快感を得て、常識や倫理を捨ててハマり込んでしまいます。
こういう心理を、陰謀論界隈では『レッド・ピルを飲んだ』と表現することがあります。

これは映画『マトリックス』で、主人公のネオが赤いピルを飲んだことで、それまで見ていた世界が機械によって作られた夢だったことを知るというところからきています」

こうしたトンデモ陰謀論の数々を笑って楽しめるうちはいいが、間違っても“気づいたら本気で信じてしまっていた”なんてことがないように、十分注意していただければ幸いだ。

取材・文/TND幽介/A4studio