田舎暮らしは忙しい
おそらく「田舎=スローライフ」だと想像している人は少なくないだろう。だがこの考えは正しくないと言っていい。
地方で暮らしたいと思う背景には、たとえば次のような要素があるだろう。「本格的な家庭菜園をやりたい」「美しい庭を作りたい」「たくさんの動物と暮らしたい」「カフェ経営を始めたい」「家の修繕など積極的にDIYしたい」「外食を減らし、野菜を中心とした自炊にしたい」「薪ストーブを始めたい」「ご近所との温かい付き合いを楽しみたい」。
つまり、新しいことをいくつも始めたいという欲求があるからこそ、移住して田舎暮らしをしたいと思うのであって、それには相応に手間も時間も掛かる。筆者の住む東京の奥多摩は、都心からの移住者が多く住んでいる地域だ。それぞれが移住前後でライフスタイルを大きく変え、山奥での暮らしを満喫しているが、その多くが家庭菜園を実践している。
また、なんでも自分でDIYしようという意欲から、家具づくりや家の修繕に時間を掛けている人が何人もいる。のんびりと暮らし、できるだけなにもしたくないから田舎に移住した、という人は現役引退組以外にはほとんど見当たらない。皆、田舎特有の忙しさを楽しんでいるのである。
また、都会では寒くなればエアコンが当たり前だったかもしれないが、寒い地域では暖房能力が追いつかないので、灯油の調達というルーティンが生じたりする。家とスーパー、医療機関、役場などの距離が離れていれば、その移動にも時間がかかる。生活するために不可欠な用事に、意外と時間を取られるのだ。
都会ではありとあらゆるサービスがスピーディに受けられていたことを痛感させられることだろう。もちろん、できることは自分でやるという暮らしが楽しいということにも気づき、それに割く時間が増えていくのである。