バレエが妖怪「ぬりかべ」じゃなくなった日
——留学するまでとCA時代、そして現在…バレエの存在感に違いはありますか?
20歳で挫折するまで、バレエは妖怪の「ぬりかべ」みたいな存在だったんです。目の前にドーンと立ちはだかって、どんなに頑張っても突き抜けられないもの。幼少期から先生に恵まれ、必要な知識やテクニックは身体に入っているはずなのに、先に進めない。達成できることが何もないと感じていました。バレエが「ぬりかべ」じゃなくなったのは、コロナ禍でレッスンを再開したときです。頑張ったらもっと自分は変わっていけると思えました。
——今、「ぬりかべ」は?
自分への失望感が消えてからは、消えて無くなりました! 今の私にとってバレエは、いちばん楽しくていちばんつらいもの。どうしてもできなくて泣きながら自習することすらも、思い返せば楽しい(笑)。私という人間が生きるために、なくてはならない存在だと思っています。
——入団した年に「白鳥の湖」でポーランドの王女役に抜擢され、今年の「ジゼル」では精霊の女王・ミルタを踊りますね。
はい! 「ジゼル」はロマンティック・バレエの代表作のひとつで、いわゆる古典作品。9月からリハーサルが始まったのですが、今は、振り付けを入れている段階です。どう表現していくか、毎日ワクワクしながら過ごしています。
——もう少し先のことをおうかがいしてもいいですか?
そうですね…。バレエダンサーにはどうしてもタイムリミットがあります。個人差はあるけれど、第一線で踊れるのは長くても40歳くらいまで。その年齢までに自分がどこまでいけるか、どういう練習をしていけばいいのかということを考えます。
いつも思っているのは「変えられるのは自分のことだけ」ということ。たとえば、自分の思い通りにならないことがあるとき…私の場合は、CAとしてフライトで飛びたいのに飛行機が飛ばないということでした…環境や他人のせいにしても、何も変わりません。自分がどう変われば、何をすれば、この状況から抜け出せるかを考えて行動に移すように心掛けています。
バレエにはゴールがないからこそ、試行錯誤して悔いのないダンサー生活を送るために、大切に日々を過ごしたいですね。
取材・文/工藤菊香 撮影/石田荘一
2022/2023シーズン 新国立劇場 開場25周年記念公演
新国立劇場バレエ団『ジゼル』
【会場】新国立劇場 オペラハウス
【振付】ジャン・コラリ/ ジュール・ペロー/マリウス・プティパ
【演出】吉田都
【改訂振付】アラスター・マリオット
【音楽】アドルフ・アダン
【出演】新国立劇場バレエ団
【公演日程】10月21日(金)〜30日(日)
※休演日あり。詳細は下記『ジゼル』サイトをご確認ください
※根岸さんは22日(土)13:00〜、23日(日)14:00〜、29日(土)18:00〜 の回にミルタ役で出演
『ジゼル』 https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/giselle/
新国立劇場 バレエ&ダンス https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/