太陽光、EV、半導体分野で惨敗した日本
高橋 高橋はマクロの雇用を重視しすぎと言われたら、たしかにそうなんだけど、でもね、GDPギャップを埋めないかぎり景気回復はせずに、失業者が増えるというのはマクロ経済学の基本。失業者が続出するというのは国家にとって最悪なんですよ。マクロの雇用の確保が政府の最大の役目というのは先進国では共通認識だ。
古賀 でも、そうやって金融緩和で雇用をつなぎとめている間に、日本企業はどんどん国際競争力を失ってしまった。金融緩和がもたらす円安に頼って輸出の手取り金額を増やして利益は出すけど、安倍さんは8年近くも首相を続けたのに何のイノベーションも生産性の向上もできなかった。
アベノミクスの致命的な欠陥は第1、第2の矢である金融緩和と財政出動をするだけで、本当に必要な成長戦略という第3の矢を、無能な経産省と既得権を維持したい経団連に任せきりで放てなかったこと。
たとえば、原発維持にこだわって再生可能エネルギー産業を潰しちゃった。かつては太陽光で世界トップシェアだったのに、いまでは日本製の太陽光パネルを買う国はありません。やはり世界をリードしていた風力発電も2019年の日立撤退を最後に、国内で製造できるメーカーがなくなってしまった。
自動車産業も、日本メーカーと経産省が水素自動車に固執してEV作りに背を向けている間に、テスラや中国のBYDなどの外国勢がシェアをとってしまった。まずいのはEVで後れを取ると、EVに載せるバッテリーも後れをとってしまって、それまで世界シェアトップで技術面でも断トツだったパナソニックが中国のCATLや韓国のLGに抜かれ、世界では3位に転落。しかも、その差は今もどんどん広がっている。
また、半導体も台湾のTSMC、韓国のサムソン、SKハイニクスなどのアジア勢に完全に置いてきぼりにされる始末です。1人当たりGDP、購買力平価賃金、実質賃金、国際競争力といった指標で見ても世界における地位は軒並みダウンしている。アベノミクスは金融緩和しただけで、たしかに株価や不動産は上がったかもしれないけど、日本の国力アップにはほとんど貢献していないというのが僕の評価です。
高橋 そういうミクロの話はマクロが出来た後に行うもの。日本の停滞はアベノミクス下の10年間だけでなく、この「失われた30年間」の長い積み重ねだから、すぐに改善はできない。
だから、アベノミクスはその第一歩として、まずはマクロで金融緩和で雇用を増やそうとしたというわけ。マクロ環境ができればその後にミクロの話は自ずとついてくる。安倍政権は、日本は社会主義国でない自由主義の国だから、産業や企業のミクロの話に国はあまり関与しない方がよいという健全な考え方も持っていた。