国葬の法的根拠と安倍元総理の「人格問題」
――その安倍さんの国葬が間もなく行われます。率直に安倍元総理の国葬をおふたりはどう考えますか?
高橋 憲政史上最長の8年8か月も首相をやったんだから、十分にその資格はある。根拠法がないとか、閣議決定だけで決めたとか、手続き的なことを問題視する人もいるけど、99年に内閣設置法が成立した時に、国葬を国の儀式として執り行えるという整理が行われている。
第4条で「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務」を内閣の所掌事務と定めてあるんだけど、その時に政府の中央省庁等改革推進本部事務局が逐条解説として作成した文書に、国の儀式を①憲法7条による国事行為としての儀式、②閣議決定により国の儀式として位置づけられた儀式に分類し、②の例として「吉田茂元首相の国葬」と明記されている。つまり、岸田内閣が閣議決定で国葬儀をやると決めることは法的には何の問題もない。
古賀 僕は、その指摘は間違っていると思っている。たしかに4条には内閣の所掌事務として国の儀式などがあると書かれているんだけど、これは法制的に何かで決まった儀式について「事務」を担う担当部署がちゃんとありますよ、というだけのこと。
国葬を内閣の一存で決められるということではない。吉田茂の国葬を実施した佐藤栄作内閣以降、歴代内閣は国葬をしていない。そんな異例の国葬をやるからには閣議決定だけではなく、少なくとも国権の最高機関である国会の了承くらいは必要でしょう。
高橋 法律問題では司法の判断が重要で、東京地裁や大阪地裁などの裁判所も市民団体の国葬差し止め請求を次々と却下している。だからこの件はもう答えが出ているじゃないの?
私は内閣が国葬を法的にやれないことはないと言っているだけで、安倍さんが国葬に値するかどうかの価値判断はまた別。その評価は人によっていろいろあるだろうし、言いだしたらキリがない。今回の国葬については最終的に閣議決定をした内閣のトップである岸田首相が政治的責任を負うことになる。
古賀 僕は2つの点で安倍さんは国葬に値しないと思っている。ひとつは人格面。「モリ・カケ・サクラ」疑惑への安倍さんの対応を見たら、子どもたちに「安倍さんという立派な人がいたんだよ」とはとても言えない。国会で何度も虚偽答弁したり、公文書改ざん問題では赤木俊夫さんの自死を招いた。
普通は申し訳ないと思うはずなのに、安倍さんは「自分は逮捕されなかったから間違ったことはしていない」と胸を張っているようにも見える。とても人格的に国葬に値するような人ではないと僕は思う。
また、後藤健二さんがISの捕虜になった件では、後藤夫人が必死に解放交渉をしているのを知っていながら、安倍さんがわざわざ中東を訪問。ISに宣戦布告するような演説をしたことも後藤さんの殺害につながった。集団的自衛権の行使容認に踏み切るために後藤さんの帰国を妨害するためだったのは明らかです。
あの時、何と情け容赦のない人なんだろうと憤りを覚えました。だから、私はそれを批判して「I am not 安倍」と言ったんです。それと、これは後で高橋さんとじっくり議論したいと思っているんだけど、安倍さんが取り組んだアベノミクスや外交・安保などの実績面も、歴代の総理に比べて著しく優れているとは思えない。
高橋 それは古賀さんの評価だが、歴代政権最長とはそれだけ国民が支持した結果でもあり、長期政権を反映した外交面での評価もある。いずれにせよ、今になっていまさら国葬を中止にするのはありえない。
ただ、結果としては直前の調査で岸田内閣は支持率が急落し、危険水域に入った。さっきも言ったけど、今回の国葬問題で最終的に政治的責任を負うのは岸田首相。はたして今後、どうなるかを見届けたい。
撮影/村上庄吾