若さと美しさを商品にする女たち
トー横の「ぴえん」系とはだいぶ毛色が違うが、金銭とルッキズムがどきつく機能している世界に切り込むのが『VIP――グローバル・パーティーサーキットの社会学』だ。
世界の富の上位1パーセントを独占している超富裕層。その超富裕層が夜遊びにでかける高級クラブには、現役のファッションモデルを中心に、ルッキズムの頂点にいるような美女たちがテーブルを囲み、超高額のシャンパンを雨のように降らせる。
本書の著者は、かつてファッションモデルとして活動していた社会学者。彼女はその「美貌」を武器に超高級クラブに侵入し、富裕層の夜の世界を分析していく。まるで映画のようなスリルも、『VIP』の魅力のひとつだ。
また、本書は社会学の研究の一環として書かれており、社会学の勉強もできる。たとえば、「100分で名著」にも取り上げられた『ディスタンクシオン』の著者ピエール・ブルデュー。流行ったから名前だけは知っている、という人も本書を読めばこの用語の本来の使い方を学ぶことができるだろう。
『VIP』に登場する美女たちは、自然にクラブカルチャーの中枢に入り込んでいるのではない。この界隈には「プロモーター」という職業を自称する男性たちがいる。プロモーターたちは超富裕層の顧客(クライアント)が予約するクラブの高額なテーブルのために、美女たちを「友人」として斡旋しているのだ。
ただし、斡旋された美女たちは娼婦とは区別される。基本的にはあくまで友人としてクライアントたちと一緒に夜を楽しみ、「一線を越える」ことはまれだ。彼女たちは、スタイルの良さや顔の良さ、そして若さで厳選されている。
夜ごとのどんちゃん騒ぎに「華を添えるだけの存在」として軽んじられ、「友人」であるはずのクライアントたちと同等の人間とはみなされない。
では、美女たちを斡旋するプロモーターたちが法外な利益を得ているのかというと、そうではない。たしかに高額な報酬は得ているものの、その出自は基本的には貧しい。その出自による格差を飛び越えるのはとても困難だ。
プロモーター達の多くは、クライアントのようなグローバルエリートに憧れているだけで、クライアントからは無視されたり見下されたりしているのが本書の切ないところ。
「若さと美しさを商品にして、うらぶれた世界を生きる人々」という意味では『「ぴえん」という病』に通じる同時代性がある一冊だ。