『anone』で描く“人間愛”
『Woman』から5年、広瀬すずを主人公に迎えた『anone』が放送されたのは2018年。“母性”や“母と子”の関係にレンズを向けてきた彼らが、この作品で捉えようとした輪郭は“人間愛”である。
ひょんなことから出会い、ともに暮らすようになる人物たちが擬似家族を形成していく様は、是枝裕和監督の映画『万引き家族』(2018)や『ベイビー・ブローカー』(2022)にもみられるテーマ性を帯びている。
過去のトラウマや事件をきっかけに、法律事務所で事務員として働く亜乃音(田中裕子)と出会うハリカ(広瀬すず)。その後、青羽るい子(小林聡美)や持本舵(阿部サダヲ)も加わり、まるで家族のような生活を送ることに。
実際、亜乃音はハリカに対し「ここはもう、ハリカちゃんが帰るところだからね」と伝えている。だが、実の親に見放され、違法とも思える更生施設で生活していた過去があるハリカにとって「愛されたことがない」事実は焼き痕のように消えない。
そんな彼女に対して亜乃音は「愛された記憶がなくても、愛することはできると思いますよ」と声をかける。
血が繋がっていない、なんの縁もない人間同士でも、愛し愛されることはできる。亜乃音の淡々とした愛情は、押し付けがましくない温度をともなってひたひたと沁みる。
生きる意味がわからなくなってしまった者たちに対し「生きなくったっていいじゃない、暮らせば。暮らしましょうよ」――そう促す亜乃音の存在は、このドラマにおいてもシンボルのようにそびえている。