まさかの赤コーナーからの入場

まだプロ2戦目ながら、タイで人気が爆発した孝太。それに対して、相手はキックボクシング275戦239勝のレジェンドだ。会場は異様な熱気に包まれ、両者の対戦は、単なるエキシビジョンマッチではなくなっていた。

当日の朝、「今日はマジで会場いくのイヤだなって思いました」と、思わず本音を吐露していた孝太だったが、試合直前のファンの盛り上がりを花道から見ると、「入場めっちゃ楽しみです。もっともっと盛り上げるように煽っていきますよ!」と顔を輝かせた。朝の様子がウソのように口笛すら吹いている。このあたり、さすがはキングの息子である。

入場はなんと、ブアカーオが先だった。王者が青コーナーとは異例中の異例だ。

「いや、『好きなは何色ですか』って聞かれたから、『赤です』って答えただけなんです。『赤か、青か』って聞かれたら、さすがに僕も察して『青』って言いますけど(笑)。ブアカーオさんの後から入場なんて、本当にヤバいですよ」(孝太)

控室にまでもうもうとスモークが入り込んできて、いよいよ孝太の入場だ。

「ブアカーオさんは“カチカチ”でした」キングカズ次男・三浦孝太、タイでのリベンジを誓う_06

親交のある世田谷区出身のラッパーLEAPの手によるテーマ曲「オトコハツライヨ」が流れる。ラップ版「寅さん」のテーマだ。孝太の胸には柴又で買った寅さんのお守り。タイでここまで寅さんがフィーチャーされたのは初めてだろう。会場のボルテージは最高潮に。

「ブアカーオさんは“カチカチ”でした」キングカズ次男・三浦孝太、タイでのリベンジを誓う_07

孝太自身が「足元にも及ばなかった」と語った試合の詳細については、YouTubeなどでチェックしてほしい。決して“相手を打ち負かす試合”ではないとわかっていても、ブアカーオが絶妙に芯を外して攻撃していることが見てとれても、リングサイドで撮影しながら僕は興奮していた。エキシビジョンとはいえ、二人が真剣だったからだ。

ブアカーオは言うなら、格闘技を見慣れていない観客に対してもわかりやすいように、持てる最高のパフォーマンスを見せた。その打撃が3センチずれていたら孝太は“殺されて”いただろう。実際、孝太は「今までリングの上で恐怖を感じたことはなかったけど、今日は本当に怖すぎて、自分が何をしていたのか思い出せないです。ダサいですね」と話していた。

それでも果敢に葛西裕一トレーナーから教わってきたアッパーや、宮田代表に言われた廻し蹴りも繰り出した。エキシビジョンとはいえ、キックボクシングはこの試合が初めて。それでよくぞここまでやるなと目頭が熱くなった。

試合後、孝太はこんな風に話していた。

「タイに来るまでこんなにもタイの皆さんに応援されているとは思わなかったです。ムエタイのすごさが身に沁みました・この経験を大切にして強くなって、いつかまたタイに戻ってきたいです」