目的の道の駅に辿り着いたのだが、えも言われぬ恐怖感に襲われる

むつ市中心部からかわうち湖までは、東回りの県道46号線を行く。
河内川渓谷沿いのこの道が、かなり厳しかった。
路面はきれいに舗装・整備されているのだが、急カーブが続き、ただひたすら真っ暗。
そしてこの道に入った時点から、他の車をまったく見かけなくなり、心細さが次第に募っていった。

この夏、東北地方は雨に見舞われていた。
その影響で土砂崩れが多発している山道はなかなかスリリングなのだが、その日は天気が良かったので、新たな土砂崩れの心配はなさそうだった。
どこまでも真っ暗な山道を走り、もしかしたらこのまま永遠に、どこにもたどり着かないのではないかという妄想に陥りかかった頃、道の駅かわうち湖にたどり着いた。

……だが、そこは異様に淋しい場所だった。
昨今の車中泊ブームで、各地の道の駅はにぎわっていることが多く、どちらかと言えば静かな環境を求めたいという気持ちが強かったのだが、ここは逆に不安になるほどひっそり閑としている。

僕の車のほかにいるのは、たったの一台だけ。
これがまた、不安な気分に拍車をかける要因となる。
キャンピングカーやバンだったら、僕と同類の車中泊組だなと思うのだが、その車は普通のコンパクトカー。
だだっ広い駐車場の中央付近、闇の中にぽつんと駐車している。
こんな場所で夜の9時だから、車内ではきっと人がいて休んでいるのだろうが、気配は感じられない。何をしているんだろう?

ヤバいやつだったら困るので、僕はその車からなるべく離れたスペースに駐車し、寝る準備をはじめた。
準備といっても、窓に目隠しのカーテンやサンシェードを設置するだけだが、その作業をしていたら、なんだか犬の様子がおかしくなってきた。

何かにおびえたように尻尾を巻き、ソワソワ落ち着かない。
舌を出し、ハアハアと荒い息をしている。緊張しているときによく見られる仕草だ。
どうしたんだろう? 周りには何もいないのに。
犬の様子を見ていたら僕もなんだか不安になってきた。
動物の本能で、何か不吉なものを感じているように見えたからだ。

逃げよう!
わけがわからない恐怖にとらわれ、僕は車のエンジンをかけて急発進。道の駅かわうち湖をあとにした。
あの異様な雰囲気を放っていたコンパクトカーが、猛スピードで追いかけてきたらどうしよう……。
そう思ってしばらくはバックミラーに注意していたが、どうやら追われている様子はなくほっと胸をなで下ろした。

ここから国道338号に入り、西の海沿いを大間崎まで行くのはかなり長い道のりだが、とにかく少しでも早くそこから遠ざかりたかった僕は、必死でアクセルを踏み込んだ。

その途中のカーブで、クマに遭遇したのだった。

中途半端だが、本稿はここで終了する。

実はまだ旅の途中で、この原稿は秋田県内のとある道の駅で書いている。
出発からドタバタ続きだった今回の車中泊の旅、クマ事件以外にも書きたいことがいろいろあるので、順次報告したいと思っています。

文・画像/佐藤誠二朗

車中泊旅の途中、本州最果ての国道でクマに遭遇した夜_4
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