国際社会が立場を異にする人々の
言葉に耳を傾けること
去年(2021年)の8月にタリバンが再び政権の座に就いた。カブールから飛び立つ飛行機から振り落とされる避難民の映像を見て驚愕した人は多いだろう。ガーニ政権が国土を実効支配できていないことはニュースで知っていたけれど、地方都市が次々と制圧され、軍が戦わずに敗走し首都カブールが“無血開城”、大統領が全財産かかえてヘリコプターで逃げ出すところまで統治機構が空洞化していたとは知らなかった。むろん私が無知だったというだけのことだが、日本のメディア報道の興奮ぶりを見ていると、現地の事情に疎かったのは私ばかりではなかったようである。
いったいアフガニスタンで何が起きたのか、これからどうなるのか。それについて冷静で中立的な立場から教えてくれる本がないだろうかと思っていたら、この本が送られてきた。
著者は国連アフガニスタン支援ミッションのトップを務めた山本忠通国連事務総長前特別代表と、2012年にタリバンとアフガニスタン政府双方の代表を招いてアフガニスタンの平和構築について対話するという「世界初の」国際会議を開催した同志社大学大学院の内藤正典教授である。アフガニスタンを「観察してきた」人というよりは、かの地での平和構築を「実践してきた」人である。
現場を知り、本人に会ってきたという人たちの話は総じて深く複雑なものになる。勧善懲悪の二元論に落とし込むことはないし、頭でこしらえたシンプルな解決策を語ることもない。破綻国家アフガニスタンの再建がどれほど困難なものであるのか、それを私たちはこの本から教えられる。対話的な環境を整えて、タリバンを国際社会に呼び戻すまでにはまだ多くの時間と忍耐が必要だろう。けれども、国際社会がおのれと立場を異にする人々の言葉に耳を傾け、そこに「一理ある」ことを受け入れない限り、イスラームをめぐる問題は絶対に解決しないということは骨身にしみてわかった。私たちに必要なのはひとりひとりの政治的成熟である。