能楽師と琵琶法師が織りなす異色のミュージカル・アニメーション!
出会ってしまいました。100作品に一本レベルの大傑作です。どこから話せばいいのかわからないほど、見どころしかありません。そしてもともとはアンダーグラウンドだったはずのアニメ作品がどんどん権威化していく現象に一石を投じる作品です。
本作の舞台は、室町時代の京の都。近江猿楽の比叡座の家に生まれた異形の子「犬王」が主人公です。あまりに奇怪な姿だったため、大人たちは犬王の全身を衣服で覆い、顔には面をかぶせました。そんな犬王が出会ったのが、平家の呪いによって盲目となった琵琶法師「友魚」。二人は一瞬で呼吸を合わせ、心を通わせることで、お互いの舞と歌によって、二人だけの世界を表現していきます。
やがて、乱世の時代を生き抜くためのバディとして固い友情で結ばれた二人は、お互いの才能を開花させ、ヒット曲を連発。唯一無二のポップスターとして観客を熱狂させていきます。モチーフは能ですが、鬼才・湯浅政明監督の手によって、『ボヘミアン・ラプソディ』にも匹敵するロックコンサートミュージカルに昇華されています。
クリエイター陣もまさに大御所であることに意味があります。脚本・野木亜紀子さん、キャラクター原案・松本大洋さん、音楽・大友良英さんとトップクリエイターばかりですが、この大御所の面々はそもそもがカウンターカルチャーの申し子であり、権威とは真逆の現役プレイヤーであることがひしひしと伝わってきます。
例えば音楽は琵琶の音を取り入れつつ、大友さん自らギターを演奏し、類を見ない劇中歌を作り上げていますし(恥ずかしながら、人生で初めて琵琶の音色に心を奪われました!)、作画も物理法則の代わりに“感情法則”とでも言うべき鬼気迫るものがあります。そしてトドメを刺すのがキャスティング。犬王を女王蜂・アヴちゃん、友魚を森山未來さんという本物のカウンターヒーローが演じます。アニメは本来非権威の芸術。いや、芸術なんてものじゃない。これは純粋な楽しみのために見るべき作品です。
『犬王』
原作/古川日出男
監督/湯浅政明
脚本/野木亜紀子
キャラクター原案/松本大洋
音楽/大友良英
配給/アニプレックス、アスミック・エース
©2021“INU-OH” Film Partners
歴史に消えた能楽師・犬王の物語を描いたミュージカル・アニメーション。5月28日全国ロードショー。キャストは、アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊ほか。
Text:Yoshito Tanaka