「まず謝る」の意味を、日本人は説明できるか

三つ目は、謝ることです。客から指摘された時、謝罪より先に事情を説明する人がいます。本人は正確に説明しているつもりでも、客には言い訳に聞こえ、かえって怒りを強めてしまう場合があります。

一方、スタッフの側には、「自分が悪いと決まっていないのに、どうして謝るのか」という疑問がある。これは、考えてみれば自然な問いです。謝罪への感覚にも個人差や育った社会の影響があり、「外国人は謝らない」という決めつけでは理解できません。

坂本さんが教えていたのは、まず相手が嫌な思いをしたことを受け止め、そのあとで事情を説明する、という順序でした。何もかも自分の責任だと認めるよう迫るのではなく、相手が困っていることに向き合う。その意図を伝えることが大切です。

例えば、待たせてしまった客には、まず「お待たせして申し訳ありません」と伝え、それから時間がかかった事情を説明する。何について謝っているのかが具体的なら、スタッフも言葉の意味を理解しやすくなります。

「とにかく謝れ」では、納得できないまま頭を下げるだけになりかねません。相手の気持ちを受け止めることと、事実関係を確認することは、どちらも必要です。その両方をどう伝えるかを、一緒に考えるのが教育だと思います。

商品、時間、謝罪。この三つに共通するのは、日本人が無意識に期待していることを、仕事の手順だけでは伝えきれないという問題です。なぜ確認するのか。なぜ連絡するのか。なぜ、その順番で話すのか。教えようとすると、日本人の側も自分たちの習慣を説明し直す必要に迫られます。

日本で働くのだから日本人と同じように振る舞え、と言うだけなら簡単です。しかし、理由を示さず従わせても、初めての場面で自分で判断できるようにはなりません。

日本文化を教える目的は、外国人スタッフの考え方を日本人に近づけることではありません。知らないために傷ついたり、叱られたりする場面を減らし、自信を持って売場に立てるようにすることです。パスタに添える一本のフォークや一膳の箸から、私たちが教えるべきことは、そこまで広がっているのです。

文/村尾信一  写真/Shutterstock

店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。コンビニで働く外国人たちと店主一家の23年(飛鳥新社)
村尾信一
店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。コンビニで働く外国人たちと店主一家の23年(飛鳥新社)
2026/9/30
1650円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4868011651
・コンビニ経営なんて、やるんじゃなかった
・店長、車が店に突っ込んできました!
・揚げ物を一日1000個売れ
・牛丼には箸ですか?スプーンですか?
レジの向こうには、それぞれの人生がある。

日本のコンビニで働く外国人は8万人を超える。
これは、人手不足に苦しむ一軒のコンビニと
それを支えた人たちの、実話に基づく物語である。

50歳で百貨店を辞め、妻とともに長崎から上京し、東京・西麻布でコンビニを開業した坂本哲郎。売上不振、50万円の盗難、車の店舗突入、相次ぐクレーム、2年間一日も休めない、など想定外の出来事に追われる。
深刻な人手不足のなか、坂本が採用したのは、日本へ来たばかりの外国人留学生たちだった。敬語が使えない。時間を守れない。お釣りを間違える――日本人には当たり前のことが、彼らには通じない。坂本は仕事を一から教える一方、学校、住まい、結婚、在留資格など、生活の相談にも乗るようになる。やがて、留学生たちは正社員となり、店長として店を任されるまでに成長する。
いかにして坂本は、外国人スタッフたちから「日本のお父さん」と呼ばれるようになったのか。コンビニ本部に30年間在籍した著者が、自身の経験と関係者への取材をもとに描く、店主一家と外国人スタッフの23年の物語。
amazon