本部が教えたかったことと、現場が知りたかったこと
コンビニ本部は、店での教育を支えるため、外国人スタッフ向けの研修を開いています。セブン&アイの公表資料でも、日本語学校での説明会や、外国人向けの初期教育テキスト、レジ接客研修などの取り組みが紹介されています。
こうした研修では当初、レジ機器の操作、宅配便や公共料金の受け付け、インターネット商品の店舗受け取りといった実務に、多くの時間が使われていました。作業を正確に覚えれば、接客にも余裕が生まれる。教える側の考えとしては、筋が通っています。
ところが、現場に研修への要望を尋ねると、上位に並んだのは基本的な接客応対、日本の接客や文化、言葉遣いでした。レジ操作や宅配便受付の優先順位は低く、オーナーに聞いても、外国人スタッフに聞いても、ほぼ同じ傾向だったのです。
機械の操作は、手順が決まっています。分からなければ、実演してもらい、繰り返し練習できます。一方、客がなぜ不機嫌になったかは、画面に表示されません。昨日と同じ応対をしたのに、今日は怒られる。本人にとっては、こちらの方が難しい問題です。
実務を教える必要がないのではありません。操作を覚えたことと、安心して客の前に立てることは、同じではない。その違いを、教育する側はもっと意識する必要があります。外国人スタッフが直面する戸惑いを、ここでは「商品」「時間」「謝罪」の三つから考えてみます。
商品名を覚えても、客の好みまでは分からない
一つ目は、商品のことです。コンビニに並ぶ商品数は約2800品目、毎週入れ替わる新商品は100品目以上あります。品ぞろえは店や時期で変わりますが、日本人でもすべてを把握するのは難しい量です。
外国人スタッフの場合は、そこに食文化の違いが重なります。例えば、おでん。客が指をさせば分かっても、「がんも」「つくね」「さつま揚げ」と言われると、どれを取ればよいか分からない。おでんになじみのない環境で育った人なら、無理もありません。
日本語学校で習う言葉と、売場で客が使う言葉にも隔たりがあります。「はし」には箸、橋、端があり、物の数え方も一本、一膳、一個と変わる。食べ物を見分け、注文を聞き取り、必要な物を尋ねる。短いやり取りにも、いくつもの知識が必要です。
しかも、商品を理解した先に、もう一つ難問があります。牛丼には箸なのか、スプーンなのか。パスタにはフォークなのか、箸なのか。日本人でも好みが分かれる以上、商品だけを見て、目の前の客が望む物を当てることはできません。
そこで教えたいのが、「フォークでよろしいですか」「お箸にしますか、スプーンにしますか」という尋ね方です。何をつけるか迷ったら、相手に選んでもらう。答えを知らなくても、答えを確かめることはできます。
「客に聞けばいい」という説明だけで終わらず、そのまま使える短い言葉を教え、一緒に練習する。忙しいレジで、とっさに丁寧な日本語を組み立てる負担まで考える必要があります。
箸をつけられて怒る人の中には、食べにくさに加え、「自分は雑に扱われた」と感じる人もいるでしょう。店員に悪気がなくても、客には気遣いが足りないように映る。もちろん、希望と違う物を渡されたからといって、怒鳴ってよいわけではありません。ここで理解したいのは、客が当然だと思っている期待と、スタッフが知っていることのずれです。
接客教育では、食器を袋に入れる手順とともに、なぜ確認のひと言が必要なのかを伝える。商品知識には、その商品を人がどう食べ、どんな気遣いを期待するかという生活文化も含まれるのです。













