「まず謝る」の意味を、日本人は説明できるか
三つ目は、謝ることです。客から指摘された時、謝罪より先に事情を説明する人がいます。本人は正確に説明しているつもりでも、客には言い訳に聞こえ、かえって怒りを強めてしまう場合があります。
一方、スタッフの側には、「自分が悪いと決まっていないのに、どうして謝るのか」という疑問がある。これは、考えてみれば自然な問いです。謝罪への感覚にも個人差や育った社会の影響があり、「外国人は謝らない」という決めつけでは理解できません。
坂本さんが教えていたのは、まず相手が嫌な思いをしたことを受け止め、そのあとで事情を説明する、という順序でした。何もかも自分の責任だと認めるよう迫るのではなく、相手が困っていることに向き合う。その意図を伝えることが大切です。
例えば、待たせてしまった客には、まず「お待たせして申し訳ありません」と伝え、それから時間がかかった事情を説明する。何について謝っているのかが具体的なら、スタッフも言葉の意味を理解しやすくなります。
「とにかく謝れ」では、納得できないまま頭を下げるだけになりかねません。相手の気持ちを受け止めることと、事実関係を確認することは、どちらも必要です。その両方をどう伝えるかを、一緒に考えるのが教育だと思います。
商品、時間、謝罪。この三つに共通するのは、日本人が無意識に期待していることを、仕事の手順だけでは伝えきれないという問題です。なぜ確認するのか。なぜ連絡するのか。なぜ、その順番で話すのか。教えようとすると、日本人の側も自分たちの習慣を説明し直す必要に迫られます。
日本で働くのだから日本人と同じように振る舞え、と言うだけなら簡単です。しかし、理由を示さず従わせても、初めての場面で自分で判断できるようにはなりません。
日本文化を教える目的は、外国人スタッフの考え方を日本人に近づけることではありません。知らないために傷ついたり、叱られたりする場面を減らし、自信を持って売場に立てるようにすることです。パスタに添える一本のフォークや一膳の箸から、私たちが教えるべきことは、そこまで広がっているのです。
文/村尾信一 写真/Shutterstock













