ゴールが見えてくる瞬間
——ご執筆中に悩んだことはありましたか。
辻 〈しゅう〉に最後には光を見せてやりたいと思ったのですが、それをどうやって見せるのかは、書きながらずっと悩んでいました。
先ほど言ったように良い意味で読者を裏切りたいと思うのですが、どんな終わり方にするべきか。悲惨な終わり方にしてしまうのはどうなのか、ハッピーエンドだったらいいと言えるのか……。
僕たちの人生にハッピーエンドがほぼないように、小説の人たちにだってドラマみたいなハッピーエンドばかりじゃないだろう、と言い聞かせながら、書き続けていましたね。「何か一条の光のようなもの」を探す旅のような執筆時間でした。
——最初にストーリーは決まっていないのですね。
辻 まったく構成などはもちろん、ラストも決めずに始めています。どうなっていくのかは書きながら決めました。しかも、配信してしまったものはもう戻せないっていう、すごい掟があるんですよ。新聞小説のような。
書き下ろしだったら全部書き直すこともできるけど、皆が読んでしまっているから逃げられない。失敗が許されない感じで書かなければいけないスリルは、存分にありました。
2話先、3話先にこうなったら、きっと読者は興奮するだろう、深く何かの考えを持つだろう、などと考えながら、現時点を語っていく。そうしていくうちに、不思議なことですが、10話先、20話先の輪郭がつかめるようになっていたんです。
——その感覚は初めてでしょうか。
辻 昔、日野啓三さんから、プロットを決めずにスタートして、ゴールが見えてくる瞬間がいい小説だ、と言われたことがありました。これまでもあまり決めすぎないで書いていた。すると、ある瞬間にゴールが見えることがあるんですよ。
——この小説ではどんなゴールが見えてきたのでしょう。
辻 作品の中盤あたりで、「ああ、これは家族小説になるな」という感覚を得ました。最初から〈アカリ〉に何か秘密があることは匂わせているけれど、自分も分からずに書いていますし、前半は都市の片隅で荒れ狂う世界の暴力描写なんかもふんだんにある。
でもそれで最後まで進めるのではなく、もっと人間の本質的なものを描き、全世代に共鳴できる、この若い登場人物たちの成長物語にしてみたい……。そこで大きく変えられるのは〈アカリ〉だと気づき、彼女の生い立ちが具体的に浮かんできたわけです。ある意味、作家の醍醐味ですね。
——その過去を背負った〈アカリ〉に、〈しゅう〉が必死に食らいついていくところも、読みどころですね。
辻 何度も見捨てられそうになるんだけど(笑)、そうですね。二人とも最初はかなり能天気な若者に見えますけれど、ずっとそのままでいられるはずもなく、〈しゅう〉の生い立ちも浮かんできた。彼は、与えられた人生設計から飛び出している男性であることが分かってきます。
——印象的な人物がたくさん登場しますが、仙人と呼ばれる人物の言葉には重みがありますね。
辻 彼は僕に近いかもしれません。僕がいつも考えていることを、僕に代わってしゃべらせているという面があります。













