小説は世代を選ぶものではない

——作中で地名は明言されていませんが、舞台は日本の新宿・歌舞伎町を思わせます。

辻 在仏歴26年にもなるので、新宿の歌舞伎町らしきところを書くなんてことは、ここ最近はありません。そもそも20年ぐらい行っていないですし。ただ、僕は歌舞伎町や新宿でバンド活動を始めたし、歌舞伎町の入り口のジーパン屋でアルバイトもしていたので、歌舞伎町周辺がいわば青春のゼロ地点なんですよ。

——小説も若い二人が主人公ですね。

辻 この年齢になって青春小説を書けるだろうか、というのがまずありました。年を取ったら老いをテーマに書くのが当たり前みたいな世の中ですよね? 

でも、なんか僕はいつまでも自分を老人と認めたくないですし、むしろ、20代の二人を登場させ、しかも疾走感あふれる感じで書くほうが、自分らしいんじゃないか、と思ったのです。文学離れのこの時代、小説でどれだけ人を惹きつけられるか、会ったこともない読者にも自分の小説が届くのか。

大きなチャレンジですが、やってみたいと思いました。そもそも小説は基本的に世代を選ぶものではないはず。誰がどのジェネレーションを書いてもいい、本来はそういうものこそ「小説」なわけです。

——小説なので1980年代や90年代にもできたわけですが、時代設定も現在ですね。

辻 自分がよく遊んでいた時代から45年も経っているのですが、グーグルマップなど、あらゆる情報を使って、フランスの田舎(ノルマンディ地方)にいながら、今の日本の大都会を舞台に書くのは刺激的でした。

読者層が幅広いXでも連日配信していたので、どう受け取られるかというのは、結構な実験でもあったわけです。びくびくしていても何も起こらないから、批判覚悟で、突然、連載をスタートさせた。振り返る暇もないほど急な断行でした。

しかも、完結までに3か月かかりました。日曜日は休んだんですが、あとは、ほぼ毎日、3000字程度更新していったので、そりゃあ、絵が描けなくなりますよね。

——冒頭は、以前に発表した短編小説「優しい目尻」と同じ場面から始まります。まったく違う物語になっていきますが。

辻 書棚にその文庫本があって、立ち読みしていたら、いいところで終わったんです。短編でしたからね。この二人の未来を知りたいと思って、その翌日から連載をスタートさせた。ゲリラライブ、または即興演奏のようなものです。

自分の腕試しのような。昔書いた短編に着想を得て大きく膨らませました。短編が先にあり、そこから長編を書くことは著名な作家たちが過去にいくらでもやっていて、いつかは僕もやってみたいと思っていた。

「優しい目尻」は30代後半くらいで書いたので、20代はそんなに遠い過去ではなかった。でも、そこから30年経った今の辻仁成という作家にはどうなのか……。自分の中に若さがまだ残っているのか試すには、楽しい経験となりました。

——ご執筆されるのはどのような時間帯でしたか。

辻 早朝に犬の散歩をして、朝食までの間です。時間としては4、5時間くらい。夜に公開して、翌日、起きたら反響をみて、犬の散歩をして、そこから、また書いていきました。