「なんか、分かりました。もう大丈夫です」

――自閉スペクトラム症の兄の大貴(安田章大)と彼を支えてきた妹の希望(のん)の日常と未来への物語。この作品は「かぞくのひけつ」「毎日かあさん」「マエストロ」「お父さん、チビがいなくなりました」などを撮って来た小林聖太郎監督としては、自身のフィルモグラフィーの中でどう位置付けていますか。

小林聖太郎(以下、同) 自分としては来た球を打つ職人監督でありたいと思っているので、過去の作品からの位置づけというのを客観的にあまり考えて来なかったのですが、今言われて考えると、テーマの流れの中でそんなに外れてはいないと思いますね(笑)。

題材によるところもあるのかもしれませんが、おかげさまで自分の作品を見続けている方からも違和感なく評価を頂いています。

――安田さんが演じる自閉スペクトラム症の大貴が軸となる主人公ですが、監督自身はこの発達障がいについての知識は以前からあったのでしょうか。

知的障害のある少年を描いた『ニワトリはハダシだ』(森﨑東監督)という作品の助監督をしたときにいろいろな障害者施設に取材に行ったり、当事者や家族の方に会ったりしていたのでその時に得た知識などがベースにはありました。

もちろん関心があったから監督を引き受けたわけですが、果たして自分に撮る資格があるのかという恐れもありました。そこはきちんとした取材をしようと、危機感を覚えながら始めました。

小林聖太郎(こばやし・しょうたろう) 1971年、大阪府生まれ。映画監督。2006年『かぞくのひけつ』で長編映画監督デビュー。同作で日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞を受賞。主な監督作に『毎日かあさん』(2011年)、『マエストロ!』(2015年)、『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(2017年)、『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』(2019年)など
小林聖太郎(こばやし・しょうたろう) 1971年、大阪府生まれ。映画監督。2006年『かぞくのひけつ』で長編映画監督デビュー。同作で日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞を受賞。主な監督作に『毎日かあさん』(2011年)、『マエストロ!』(2015年)、『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(2017年)、『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』(2019年)など
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――安田さんはASDの演技をする上で専門家のレクチャーを徹底して受けたそうですが、監督として役者、そして物語全体に対してどのような演出を心がけられたのでしょう。

まずは脚本作りの段階で、我々の作りたい物語の強度を高めてから、専門家の方々に監修に入ってもらいました。様々な指摘を受けたのですが、それを全てそのまま受け入れてしまうと、正しさだけになってしまう。教育ビデオになってしまうので、我々のやりたいことを実現するためにはどのような設定や展開が考えられるか、監修の方々と何度もやりとりを重ね「あり得なくはない」というラインを見つけ出しました。

撮影に際しては、それこそ大貴の出演する全シーンについて下さいました。クランクイン直後は大貴の所作について、例えばもっと指をこうしましょうとかいう細かい意見をもらい反映しましたが、2 日 3 日でそれも落ち着いていきました。

全体の演出意図としては、(アイドルである安田クンが「自閉症の芝居」をしようと)頑張っているようには絶対見せたくない。そこに自然に大貴がいるっていうふうに見せたかった。そこは安田さんも同じ考えだったと思います。

取材で発達障害の方々を対象にした学習塾を訪れた後、彼が『なんか、分かりました。もう大丈夫です』と宣言したんです。そう言われると逆に心配になっちゃったんですが撮影も近づいていたし、彼のその直感に頼るしかないと覚悟を決めて撮影に臨んだら本当に大丈夫で、前述のように細かい指摘はあったものの過不足なく大貴が現場にいると思えました。

途中からは監修の皆さんもモニターの前で頷くためにいるみたいになっていきました。