中国メーカーも黙って関税を払ってはいない
さらに重要なのが、2026年に初の個別案件が承認された「価格約束(price undertaking)」である。これは、中国から輸出する企業が一定以上の価格で車を売ると約束し、その条件をEUが認めれば、追加関税を免除できる仕組みだ。
一見すると、関税を緩める制度に見えるが、実際には管理が細かい。EUは最低価格だけでなく、販売ルートや別商品による値引きの有無なども審査する。
実際、最初に認められたフォルクスワーゲン安徽の案件では、輸入数量の制限やEU域内での投資まで約束に盛り込まれた。
電気自動車だけ高い値段で売り、別の商品を安売りして帳尻を合わせるような抜け道も認めない。車一台ごとの流れまで確認し、違反すれば関税を復活させる。
ここまで取引を管理すれば自由な価格競争は制約され、消費者がより安い車を選ぶ機会が減る可能性もある。それでもEUが踏み込んだのは、相手が通常の企業間競争ではなく、EUが「国家支援によって競争条件がゆがめられている」と認定した相手との競争
だと判断したからである。
最初にこの仕組みが認められたのは、中国ブランドの車ではなかった。フォルクスワーゲン安徽が中国で生産するクプラ・タバスカンだった。これもEUの考え方をよく示している。
中国企業だから規制するのではない。中国で作られ、中国の補助制度の影響を受けうる車だから見るのである。
複雑化するEUと中国の争い
中国メーカーも黙って関税を払ってはいない。電気自動車に関税がかかれば、対象外のプラグインハイブリッド車を増やす。中国から完成車を運ぶコストが高くなれば、欧州で作る。BYDは実際に欧州での生産を進め、短期的にはプラグインハイブリッド車も重視している。
関税は企業の行動を変えた。ただ、中国企業を欧州市場から追い出したわけではない。中国勢の販売は続き、欧州での存在感も大きい。
だからEUの政策も、単純な関税だけでは終わらなくなった。輸入価格を見る。販売量を見る。どこを通って売られるかを見る。EU内に本当に投資するのかを見る。中国企業が制度の境界へ動けば、EUもその境界を追いかける。
中国はこうした措置をWTOで争っている。法的な決着にはまだ時間がかかる。その間も関税や価格約束は続く。EUと中国の争いは、すでに「関税を上げるか下げるか」という単純な話ではなくなっている。













