マスコミが語らない構造的問題

修繕積立金の算定も、同様の問題を抱えている。現在の修繕積立金は、同規模の低層マンションの実績から類推して設定されているにすぎない。タワーマンション固有のコストが本格的に顕在化した実例がない以上、その試算がどこまで正確かを誰も保証できない。所有者が毎月払い込んでいる積立金が、将来の修繕費に対して本当に足りているのかどうか、現時点では誰にもわからないのだ。

それだけではない。40階以上のマンションを解体した事例は、おそらく日本にはまだ存在しない。解体費用がいくらかかるのか、誰にもわからないのだ。修繕も然り。直下型地震がタワーマンションに与える影響も、実験データはあっても実際に起きた例がない。

エレベーターが止まれば45階から階段で下りるしかない。火災が起きてもハシゴ車は届かない。スプリンクラーが本当に作動するかどうかも大規模火災で試されたことはない。未知の部分があまりにも多い。

にもかかわらず、エントランスのラグジュアリーな雰囲気、コンシェルジュ、共用ラウンジ、眺望の良さ─そういった「目に見える価値」が購買意欲を刺激し、長期的なリスクへの想像力を封じ込める。

プール付のタワーマンション (写真/shutterstock)
プール付のタワーマンション (写真/shutterstock)
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もう一つ、見落とされがちな問題がある。マスコミがタワーマンションのリスクをほとんど報じない、という構造的な事情だ。

不動産会社の中には上場し、メディアのスポンサーになっているところも少なくない。業界で長く仕事をしていると、世間では優良企業で通っている会社が、実態として多くの相談者を苦しめているケースに何度も遭遇してきた。広告費を払っている企業の問題をマスコミが積極的に報じないのは、ある意味で合理的な行動なのかもしれない。

だが、その沈黙のしわ寄せは、情報を持たない消費者に押しつけられる。タワーマンションのリスクが社会的に十分に議論されていない背景には、こうした構造がある、と私は見ている。

文/滝島一統

『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』 (PHP研究所)
滝島一統
『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』 (PHP研究所)
2026年6月17日
1210円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4569861319
老朽化が進む日本の住宅は、マンションであれ一戸建てであれ、「持っていれば資産になる」という常識が崩れ始めている。築古マンションでは、修繕積立金不足、住民間の合意形成の難航、管理組合の実態不明といった問題が深刻化し、表面的な価格や立地だけでは見えないリスクが潜んでいる。
中古マンションの契約書類を読んでも、壁の内側の劣化や配管の老朽化、将来の大規模修繕の現実までは把握できない。
一方、地方の一戸建ては、相続をきっかけに「売れない」「貸せない」「解体費だけかかる」負動産へ転落するケースが急増している。
さらに、老後資金対策として注目されるリバースモーゲージやリースバックにも落とし穴がある。契約者死亡時の一括返済や、住み続けられなくなるリスクは十分に知られていない。
ワンルームマンション投資もまた、「不労所得」という甘い宣伝とは裏腹に、空室率、修繕費、金利上昇を織り込めば、一定以上の利回りがなければ利益は出にくい。本書は、マンションと戸建て双方の危機を比較しながら、「住まいは本当に資産なのか」という根本問題を問い直す。買う前に何を確認すべきか、そして「持ち続けるべきか、手放すべきか」を冷徹に判断するための実践的な一冊である。

第1章   老朽化マンションの現実─修繕できない、管理できない、建て替えられない
第2章  〝負動産〟化する戸建て─相続・解体・思い出のはざまで
第3章  不動産投資のリアル─欲望の先に待ち受ける現実
第4章  タワーマンション─バブル崩壊前夜
第5章  賃貸か購入か─どこに住み、どう選ぶか
第6章  それでも家が欲しい人のために
第7章  知識があれば8割は防げる―不動産Gメンとは
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