「恋愛感情」を入り口にした手口

「先輩や知人の紹介」という経路が主流である一方、近年は別の入り口も広がっている。マッチングアプリを使った手口だ。

私のもとに相談に来た34歳・年収550万円の男性の話だ。彼は、マッチングアプリで知り合った女性と6~7回会ううちに交際に発展した。その2~3週間後、女性から「節税になる話がある」と切り出された。「私も持っているんだよ」という言葉とともに、女性の勤務先のファイナンシャルプランナーを紹介された。そのFPに勧められたのが、住宅ローンを使った戸建て投資だった。

物件価格は3430万円。フルローン、40年返済、金利0.45%。家賃収入は月13万5000円で、銀行への返済は月8万5000円。表面上は毎月5万円の手残りがある計算だ。「住宅ローンで組んだら違反では」と男性が疑問を呈すと、「みんなやっているから」「もし何かあれば我々が対応する」と押し切られた。内見もしないまま契約した。その契約から数週間後、女性からの連絡は途絶えた。

査定を取ると、物件の市場価格は約2700万円。3430万円で買っているため、購入時点ですでに700万円以上の含み損を抱えていた。さらに住宅ローンの不正利用が金融機関に発覚すれば、残債の一括返済を求められる可能性がある。残債は3720万円。「自己破産しか道がないでしょうか」と男性は訴えた。「ご飯が喉を通らなくなり、体重が3週間で5~6キロ落ちた」とも言った。

拒食に陥った男性 ※写真はイメージです(写真/PhotoAC)
拒食に陥った男性 ※写真はイメージです(写真/PhotoAC)
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この手口の構造は、先輩・知人紹介と本質的には同じだ。時間をかけてターゲットの信頼を獲得し、その信頼を入り口に物件を買わせる。違うのは、職場の人間関係ではなく恋愛感情を利用している点だ。「付き合いましょう」と言われた相手から勧められた投資に、人は疑いを持ちにくい。女性は1件あたり60~90万円のバックマージンを受け取っていると私は見ている。

結婚詐欺であれば金銭の詐取として立件できる可能性があるが、「市場価格より高い不動産を買わせた」という行為は、法律上の詐欺として立件することが極めて難しい。それをわかったうえでこの手口は設計されている。「人の心をもてあそぶゴミみたいな人間だ」と私は思う。だが怒りをぶつけても、男性の状況は変わらない。

私が男性に示した選択肢は二つだ。一つは早めに法律家に相談し、銀行側と交渉しながら法的なソフトランディングを目指すこと。もう一つは、入居者が退去した際に自分が住み、住宅ローンとして本来の用途に戻すことだ。

どちらにせよ、時間をかけるほど状況は悪化する。「あなたはまだ若い。収入も十分にある。命を失ったわけではない」─それだけが、私がその場で言えた言葉だった。

文/滝島一統

『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』 (PHP研究所)
滝島一統
『その家、買ってはいけない 不動産屋が言わない、購入、投資、相続の真実』 (PHP研究所)
2026年6月17日
1210円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4569861319
老朽化が進む日本の住宅は、マンションであれ一戸建てであれ、「持っていれば資産になる」という常識が崩れ始めている。築古マンションでは、修繕積立金不足、住民間の合意形成の難航、管理組合の実態不明といった問題が深刻化し、表面的な価格や立地だけでは見えないリスクが潜んでいる。
中古マンションの契約書類を読んでも、壁の内側の劣化や配管の老朽化、将来の大規模修繕の現実までは把握できない。
一方、地方の一戸建ては、相続をきっかけに「売れない」「貸せない」「解体費だけかかる」負動産へ転落するケースが急増している。
さらに、老後資金対策として注目されるリバースモーゲージやリースバックにも落とし穴がある。契約者死亡時の一括返済や、住み続けられなくなるリスクは十分に知られていない。
ワンルームマンション投資もまた、「不労所得」という甘い宣伝とは裏腹に、空室率、修繕費、金利上昇を織り込めば、一定以上の利回りがなければ利益は出にくい。本書は、マンションと戸建て双方の危機を比較しながら、「住まいは本当に資産なのか」という根本問題を問い直す。買う前に何を確認すべきか、そして「持ち続けるべきか、手放すべきか」を冷徹に判断するための実践的な一冊である。

第1章   老朽化マンションの現実─修繕できない、管理できない、建て替えられない
第2章  〝負動産〟化する戸建て─相続・解体・思い出のはざまで
第3章  不動産投資のリアル─欲望の先に待ち受ける現実
第4章  タワーマンション─バブル崩壊前夜
第5章  賃貸か購入か─どこに住み、どう選ぶか
第6章  それでも家が欲しい人のために
第7章  知識があれば8割は防げる―不動産Gメンとは
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