独裁者が本当に恐れる「民衆」の力

チュニジアの26歳の青年モハメド・ブアジジは、国内の高い失業率のあおりを受け、無許可で露天商を営んでいました。2010年12月17日、ブアジジがいつものように野菜を売っていると、女性警察官から商品である野菜を没収されるだけでなく暴力を振るわれます。

これに抗議したブアジジは焼身自殺を図り、その様子がSNSを通じてチュニジア全土に広がりました。結果、独裁に抗議する大規模なデモが発生し、独裁者であったベン・アリは国外に逃亡することとなったのです。「アラブの春」の発端となったジャスミン革命です。

チュニジア国旗(写真/shutterstock)
チュニジア国旗(写真/shutterstock)
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一人ひとりの力は小さくても、集まれば大きな力をもつことになります。独裁者にとっては時にそれが大変な脅威にもなるのです。

また、人びとが支持している場合、エリートも迂闊にリーダーを挿げ替えることはできません。いくら気に入らないからといって、愛されているリーダーを交代させてしまったら、自らが人びとから嫌われてしまう可能性があるからです。

独裁者として有名なカエサルが暗殺されたあと、元老院は市民からの支持を得られると信じていました。しかし、人びとはカエサルの死を嘆き、ローマの政治も不安定な時代が続いていくこととなります。一般に、エリートによる独裁者の放逐は、大衆の不満が高まったときに起きる傾向にあります。エリートもまた、国民の声を察知して行動するのです。

これを読み違えた事例が、ビジネス界にもあります。ChatGPTで有名なOpenAIの創業者であるサム・アルトマンは2023年にCEOを解任されます。それを主導したのは、アルトマンと対立関係にあったイリヤ・サツキヴァーだったとされていますが、社員はアルトマンを支持し、逆にサツキヴァーがOpenAIを後にすることになります。

彼は、アルトマンを解任することで、社員から喝采を受けると信じていたそうですが、実際には違ったようです。社員の770人のうち700人以上が「アルトマンと(同時に解任されていた)グレッグ・ブロックマンを復帰させ、理事全員が辞任しなければOpenAIを退社してマイクロソフトに行く」という書簡に署名したとされています。

文/大澤傑

『独裁者の手口 なぜ権力を握り続けられるのか』 (PHP研究所)
大澤傑
『独裁者の手口 なぜ権力を握り続けられるのか』 (PHP研究所)
2026/9/16
1320円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4569861609
独裁者は何を考えているのか?
ヒトラー、プーチン、習近平、トランプ…「独裁者」と呼ばれる指導者はどう権力を握り、維持してきたのか。
彼らの思考・行動には共通する法則がある。
また本書では政治指導者だけではなく、カルロス・ゴーン、イーロン・マスクといった経営者の権力掌握術も紹介。
ビジネスパーソンが知っておくべき、権力の正しい使い方も分析。
権威主義に精通する気鋭の研究者が、権力者の思考法と独裁への向き合い方を明かす。

独裁の近現代史を知れば、世界の今がわかる!
ヒトラー:危機をあおって救世主を演出
プーチン:法律を変えてイエスマンを配置
習近平:反対者を粛清して個人崇拝を実行
金正恩:英雄譚をつくって正統性を誇示
カルロス・ゴーン:強権的手法で社内風土を刷新

目次
第1部:独裁者になる
第1章:危機感をあおる
第2章:迅速に、時には地道に
第3章:自分に有利なルールをこっそりとつくる

第2部:独裁を維持する
第4章:独裁のタイプを見極める
第5章:反対する者を排除する――出る杭を打つ
第6章:周囲の者にアメを――最大の敵は身内にあり
第7章:人びとから愛される――愛は世界に存在する最も強い力

第3部:独裁の帰結
第8章:独裁者の末路
第9章:独裁者と向き合う
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