働き、鍛え、老いを隠すリーダーたち

たとえば、エルサルバドルのブケレは、ジーンズをはくラフなスタイルで国民から親しまれています。カダフィも民族衣装を身にまとって表舞台に立つ傾向にありました。政治家が自身のイメージカラーを決めているのと同じです。意図は違うようですが、つねに同じ服を着ていたアップルのジョブズもそのスタイルから目を引いたことでしょう。

ジョブズの洗練されたプレゼン技法は多くのビジネスパーソンが参考にしましたが、ヒトラーもよく知られるようにその演説技法で人びとを魅了しました。

ヒトラーの演説(写真/shutterstock)
ヒトラーの演説(写真/shutterstock)

また、自らが精力的に働いていることをアピールすることも大切です。スターリンは、1日15、16時間仕事をし、何でも知りたがり、あらゆる会合に出席し、声明文をまとめ、新聞記事に訂正を入れ、政治論文を執筆し続けたとされています。

ムッソリーニも、「小さな町の鍛冶屋の息子」であることに何度も言及して親しみをもたせつつ、水泳やフェンシング、乗馬に航空機操縦など、さまざまに精力的な姿を見せました。イーロン・マスクも週80〜100時間働くことで有名です。こうしたリーダーのエネルギッシュな姿は、時に人を惹きつけ、上意下達な意思決定をより確実なものとします。

政治家の多くが若さをアピールしたり、病気を隠したがったりすることはよく知られています。

米大統領選挙に際して開催されたテレビ討論会で、民主党のジョン・F・ケネディがテレビ映りの良い色のネクタイとスーツを身にまとい、共和党のリチャード・ニクソンを圧倒したことは有名です。じつのところ、ケネディも持病に悩まされていましたが、彼はそうした姿をできるだけ見せないようにし、選挙戦のみならず大統領就任後も職務を遂行しました。

また、トルクメニスタンのニヤゾフは、年老いても白髪の黒染めにこだわり、すべての写真を黒髪に修正したそうです。健康な姿勢を国民に見せることは、強いリーダーとして独裁を続けていく上で不可欠なのでしょう。

有権者は政治家を親代わりの存在と見ていて、とくに「強い父親」を好むことが多いそうです。近年では、強権的な支配者を「ストロングマン」と呼び、その男らしさの効用について分析する研究もあります。

独裁の危機は、独裁者の職務遂行が困難になったときに訪れる傾向にあります。しばしば独裁者に「影武者説」が出るのは、独裁者による統治が困難になったことを察知した反対勢力が、独裁者を引きずり下ろし、自ら権力を獲得しようとする傾向にあることから生じています。ケストナーの戯曲『独裁者の学校』でも、独裁者の影武者を使って権力を維持している取り巻きたちが大統領夫人にこう述べる場面があります。