意外なパイナップル、共感のキウイ

──先ほどの、お正月に餅を食べる話は共感されたというエピソードでしたが、これは私にはなかった考えだな、意外だな、と感じられたエピソードはありましたか。

松井 なんでしょう……あ、パイナップル。

古賀 パイナップルを買い慣れる回かな。町じゅうの人がパイナップルに慣れたという回があったんですけど。

6/29(日)
朝、丸のまま買ってきたパイナップルを切った。すこし熟れすぎたか、実よりも芯が柔らかくて甘いくらいだった。
この家では、缶詰でないパイナップルをたまに食べる。
近所のスーパーがいつかの夏、それは熱心に売ったのがきっかけだった。安く仕入れるルートがあったのか、産地でとんでもない豊作だったのか、ひとつ100円という謎の激安価格だった。それまで私はパイナップルをさばいたことがなく、それにしてもあんまり安いものだから、買わざるを得ない。調べてみれば切るのもそれほど難しくはなかった。その年は喜んで何度も買った。
翌夏も同じスーパーにパイナップルは並ぶも、さすがにすこし高くなって、その次の年にさらに高くなって、そのまた次の年からは、たまに店頭に置くものの、以前のように熱心には売らなくなった。
この街では、あの歴史的な大安売りの年にパイナップルを買う習慣をつけた家が多いのではないか。こうしてたまに臆さず買えるから、いい経験だった。
                               『5秒日記』P.203より

松井 そう。そんなことがあるのかと思って読みながらびっくりしたんです。私、パイナップルさばいたことないですし、缶詰で食べるものだって思っていたので。そんな、一つのお店が売り出しただけで人の生活って変わるんだなって。

古賀 そう、変わる。町じゅうの人々の生活が。

松井 それにびっくりしました。あと、これは共感したところなのですが、キウイを半分に切ってスプーンで食べるときに、真ん中が固くてうまく食べられないみたいなエピソードがあったと思うんです。ふだんからキウイは真ん中で切ってスプーンですくって食べていますか。

5/5(月・祝)
昨晩荷物が届き、開けてみると箱入りのゴールデンキウイだった。病気の親戚にお見舞いを送ったところ、そのお礼にと、わざわざ手配してくれた。おおおと家族一同盛り上がった。
しっかり一晩冷やし、今朝、満を持して食べる。……おいしい。
ゴールデンキウイのおいしさは、果物としての絶対的なおいしさはもちろんだけど、緑色の、普通のキウイよりおいしいという相対的な部分にあるのではないかと私などは穿(うが)ってしまう。
普通のキウイはまず、皮がちくちくしている。上手に熟させてから食べないと実が固く、半分に切ってスプーンですくって食べようとすると固い芯にはばまれてうまくすくえない。すっぱくて、いがいがする。
それに比べたゴールデンキウイの人体への優しさはどうだ。持てばつるんとしてすべすべし、実を掘るスプーンもそれはそれはスムーズに動く、甘い。
隣で息子もうめえうめえと食べていた。
そうして感心するのは、それでもなお、自分はゴールデンキウイではなくただのキウイが好きだと、キウイこそを好物とする人がちゃんといることだ。断固としてキウイ好きを標榜(ひょうぼう)する友人の力強い表情を思い出した。
人間の可能性だと思う。
                              『5秒日記』P.185より

古賀 はい。

松井 ですよね。私もそっちのタイプだったんです。でもほかに出会ったことがなくて。

古賀 えっ、本当ですか。みんな、丁寧にむいて輪切り?

松井 そうなんです。輪切りにして出てくるんですよ。だから、この描写が出てきたときに、わっ、一緒だ、うれしいと思って。

古賀 私、今日お伺いするまで、全員そうやって食べてると思ってました。何でだろう。

松井 私もそう思っていたんです。でも、家でキウイを半分に割って食べたときに周りから、「なに、それ」みたいな、「何で皮むかないの」って言われて初めて、自分が違うんだってことに気づいたんです。

古賀 知らなかった。私は今初めて気づきました。そうなんだ。わっ、おもしろい。

古賀及子(こが・ちかこ)
エッセイスト。1979年東京都生まれ。著書『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)は、『本の雑誌』の「2023年度上半期エンターテインメントベスト10」第2位に選出。ウェブメディアのライター、編集者を経て 2024年より現職。著書に『5秒日記』、『忘れたこと、忘れないままのこと』、『好きな食べ物がみつからない』、『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』ほか。近刊は『暮らしの信じ方』。
古賀及子(こが・ちかこ)
エッセイスト。1979年東京都生まれ。著書『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)は、『本の雑誌』の「2023年度上半期エンターテインメントベスト10」第2位に選出。ウェブメディアのライター、編集者を経て 2024年より現職。著書に『5秒日記』、『忘れたこと、忘れないままのこと』、『好きな食べ物がみつからない』、『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』ほか。近刊は『暮らしの信じ方』。

松井 でも、半分に切ってすくったほうが早いじゃないですか。楽ですし。

古賀 ですね。あとちょっと楽しくないですか。きわのきわを、ルルルルルルルってね。

松井 そうなんです。私子どもの頃から果物が大好きで、よくキウイを食べていたんです。でも、母が忙しいからむいてられないと。で、多分半分に割って、キウイの皮自体を器にした状態でそれ行けと言って食べさせていたんだなというのを思い出しながら、きっと、古賀さんにもなにか理由があるんだなと思って。

古賀 そうですね。きっと実家がそうだったんだと思います。いやあ、でも、初めて知れた。よかったです、今日は。仲間ですね。

松井 はい。仲間でうれしかったです。キウイを食べるときにいつも思い出したりして。

古賀 私もこれからは松井さんのことを思い出すと思います。これからの人生で思い出すアンカーが埋まりました、今。

松井 うれしいです。