見たこと、聞いたことだけを書く

松井 日記を作品として発表しようって、私は思いつかなかったことでもあるんです。過去にはそういう作品もたくさんありますが、古賀さんがこの形で作品を出そうと思ったのはなにかきっかけがあったんですか。

古賀 そうですね、松井さんもブログとかをずっと書かれていて、ネットで発信され続けていますけど、私もネットになにかを載せるということが好きでずっと続けてきたんですよね。

でも、エッセイだとやっぱり書くのが大変で。日記だったら、昨日あったことを書けばいいから、めちゃくちゃ楽なんです。これならブログも毎日書けるなということに気がついたんですよね。それで、まず日記をブログで書き続けて、せっかく書いたから、ちょっと本にしてみようかなと思って自費出版したんですね。

それは毎日1500字とか2000字とかの普通の日記です。その後出版社からお声がけいただいて、それが書籍(『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』)になりました。

ちょっと踊ったりすぐにかけだす | 素粒社2020年創業。身近にある未知を、本として世に送り出します。soryusha.co.jp

松井 そうだったんですね。

古賀 そうすると、松井さんもさっきおっしゃっていたけど、どうやって書くんですかというふうに聞いていただくようになって。そうしたときに、「自分って日記をどうやって書いてるんだろう」ということを改めて考えたんです。

感想を書かないとか、主語を私にしないとか。そんなことと一緒に、一日の中の5秒のできごとをたくさん集めてるなということに気づいたんですよね。それをツイッターに書いたら、かなり多くの方が賛同してくださって。

そのツイートを見て「北欧、暮らしの道具店」の編集者さんから、「日常の5秒のことだけを書く日記を書きませんか」というふうに打診いただいて、じゃあやりましょうとなったのが「5秒日記」です。私が気がついた方法を、編集さんがこれはいけると思って、すくってくださったってことですね。

古賀及子(こが・ちかこ)
エッセイスト。1979年東京都生まれ。著書『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)は、『本の雑誌』の「2023年度上半期エンターテインメントベスト10」第2位に選出。ウェブメディアのライター、編集者を経て 2024年より現職。著書に『5秒日記』、『忘れたこと、忘れないままのこと』、『好きな食べ物がみつからない』、『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』ほか。近刊は『暮らしの信じ方』。
古賀及子(こが・ちかこ)
エッセイスト。1979年東京都生まれ。著書『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)は、『本の雑誌』の「2023年度上半期エンターテインメントベスト10」第2位に選出。ウェブメディアのライター、編集者を経て 2024年より現職。著書に『5秒日記』、『忘れたこと、忘れないままのこと』、『好きな食べ物がみつからない』、『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』ほか。近刊は『暮らしの信じ方』。
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松井 すごい、おもしろいです。ちなみに今お話ししていた中で、感想を書かないとおっしゃっていましたよね。それはどういうことなんですか。なにかを食べて、「おいしい」ではない?

古賀 そうそう、「おいしい」って書かないってことです。感想ってあまり種類がないなと思っていて。おいしい、楽しい、うれしい、悲しい、つらい……つまり感情を言葉にし過ぎないってことかな。

おいしくても、そのままおいしいって書くよりは、その料理が何色をしていて、どれくらいの熱さで、どんな匂いがして、どんな味がして、とかを感想という力を借りずに書いたほうが伝わるかなみたいなことを思っていて。

無理に感想を書こうとすると筆が止まるなと思ったんですよね。起こったことにいちいち自分がなにか思わなきゃいけないから。

松井 ああ、はい。思って、そこで一回完結してしまいますもんね。

古賀 うん、そうなんです。すると、その先へも行けない。だから、なにも思わずに次に行くということを続けてきました。さっさと次に行く。で、5秒のできごとを重ねる。見たこと、聞いたことだけを書くということをずっとやってきました。

松井 それを聞いたら、もう一回読みたくなりました。

松井玲奈(まつい・れな)
俳優、作家。1991年生まれ。愛知県出身。舞台、テレビドラマ、映画など幅広く活動する。著書に小説『カモフラージュ』『累々』『カット・イン/カット・アウト』、エッセイ『ひみつのたべもの』『私だけの水槽』『ろうそくを吹き消す瞬間』がある。
松井玲奈(まつい・れな)
俳優、作家。1991年生まれ。愛知県出身。舞台、テレビドラマ、映画など幅広く活動する。著書に小説『カモフラージュ』『累々』『カット・イン/カット・アウト』、エッセイ『ひみつのたべもの』『私だけの水槽』『ろうそくを吹き消す瞬間』がある。

古賀 やったー。

松井 でも、言われてみれば確かにそうですね。『5秒日記』の中に食べ物の話がいくつか出てきていたのですが、それがどういう見た目だったかとかは書かれていても、味のことは書かれていなかったかもと思って。私、すぐおいしいとか書いちゃうんです。ただ、そこに至るまでをすごく肉づけして書くようにしていて。

古賀 めっちゃ書いてますよね。(『ろうそくを吹き消す瞬間』の中で)中華丼についてとかすごい分量で書いてますもんね。

松井 はい。それで、ちょっと近いところはあるのかもしれないなと思いました。目で見たものをどれだけ読んでくださる人にリアルに伝えられるかみたいなところは私もすごく考えていて。伝われこの良さ、みたいな気持ちで書いているんです。

古賀 すごく腕まくりして書かれていらっしゃる。それって小説家の方の手つきなんだろうなと思いました。細かい描写を積み重ねて、感想に頼らないとかそういう感じなのかな。情景が見えるように、ということを考えていらっしゃいますよね。

松井 はい。でも自分のためだけの日記にはすぐに、おいしかった、楽しかったって書いているなって。

古賀 でもそれは人に見せない、自分だけのものですからね。

松井 そうなんです、人に見せないものなので。でも毎日日記を書くことって文章を書く筋トレだなとあらためて今日思いました。