子育てを経て、自分の感性と言葉にもう一度耳を澄ませる

ここ最近の持田は、自分が何を好きで、何が嫌いなのかを大切にしているという。嫌いなものについて話すことなど、「昔の自分なら考えられない」。だがあえて何が嫌いかを口にすることに、意味があると気付いた。

「以前ならば、仕事柄、『お互いに気持ちよく終われるように』という部分を優先してきたと思います。少なくとも、インタビューで『先の尖った靴が好きじゃないんですよね』なんて絶対に言わない(笑)。それは履いている人に失礼だからですね。

でも、オブラートに包みすぎてしまうと、嫌いなものが判然としなくなってしまうんですよね。嫌いなものをきちんと意識することで、逆に好きなものが明確になるように思うんです。そして、『それでいいんじゃないか』と思えるようになりました」

ソロライブのリハーサルの様子
ソロライブのリハーサルの様子

感じるままを口にしてもいいと思えたのは、「どちらかといえば本を読み慣れていない」と話す持田が以前から好んで読み、喫茶店にも持ち歩くという愛読書の影響もあるかもしれない。

「画家の堀文子さんの著書が好きなんです。温泉地の宿に置いてあったのがきっかけで読むようになり、帰ってから探し求めたほどです。さまざまな著名人との対談が収録されているのですが、そこで話されている日本語、話し言葉が美しく、勉強になります。言葉は時代とともに変化していくものですが、少し立ち止まって本来の使い方やその意味を考え、普段から意識してみると、また違う景色が見えてくるような気がします。

その書籍の中に、『嫌いなものを大事に持っていることはよいことだ』という内容のことが書いてあるんです」

10月には新たなソロ公演も控えている
10月には新たなソロ公演も控えている
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持田は言葉を大切にする。丁寧に紡がれた言葉に感銘を受けるのは、書籍だけではなく映像作品でも同じだという。

「ここ最近夢中になっているのは、小津安二郎監督の映画作品です。入口は着物だったんです。以前から、現代着物ではない、年代の古い着物が好きでした。アンティーク着物のお店を訪れたとき、小津安二郎作品でも使用されていることを知って、拝見しました。

着物の質感が素敵なのはもちろんですが、次第に作品に登場する役者さんたちの日本語のきれいな言い回しなど、すべてが心地良く感じられるようになったんです。私は、古めかしいけれど丁寧に作られたものに心を奪われるかもしれません。

たとえばヴィンテージマンションとかも見惚れてしまいますし、古い車がたまに車道を走っているのを見ると目で追ってしまいます」

あえて“嫌い”と“好き”を見つめ直し、自身の感性と向き合うこと。アーティストとして30年、言葉で人々と向き合う持田香織の進化は止まらない。

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現在、東京を舞台にした三部作構成のライブツアー『TOKYO TOUR TRILOGY』を開催中。10月11日(日)には東京キネマ倶楽部で第2章「PAST」、12月5日(土)には草月ホールで最終章「PRESENCE」を迎える。チケットの詳細は、持田香織オフィシャルサイトにて。

取材・文/黒島暁生 写真/本人提供