「これまで隠してきたものを、少し打ち明けて楽になるわ」
2度のがんを乗り越えた水口さんだったが、その次は「鬱」がやってきた。
「寂しくて辛くて、夜が眠れなくなってしまいました。鬱になってしまったのよ。私は夜中3時に寝て、店の経理などする関係で毎朝7時半には起きる生活を何十年もしてきました眠れなくなってからは睡眠薬を飲むようになり、次第に飲んでも眠れなくなってしまった。
自暴自棄になって睡眠薬を何十錠も一気に飲んでビールで流し込むと、フワ〜ッとした軽やかな気持ちで眠れたんです。あまりにそんなことを繰り返すものだから、睡眠薬中毒で何日か入院したこともあるほどです」
銀座の文壇バーのママからオーバードーズ体験を聞くとは驚きだった。「これまで隠してきたものを、少し打ち明けて楽になるわ」と水口さんは話す。これまで何度となく聞いてきた激動の半生だが、人生の後半戦は特に辛かったようだ。
「いろんな方に助けられ祝賀会やら周年パーティやら輝かしい時はもちろんありましたよ。でも子宮、卵巣とがんをやった後は、60代で大腸がんにもなりましたからね。
さらに70代過ぎてコロナ禍に見舞われて。50代からの人生は良いことももちろんあったけど、大変なことの方が多かったように思います」
閉店後の人生についても聞いた。
「これまで睡眠時間は4時間ほどの日々だったけど、まず昼まで寝ようと思います(笑)。いまね、チワワのリリコと2人暮らしなんです。私が夜中に帰ると、リリコがベッドの上でちょこんと寝転がって待ってるの。それがもう、可愛くて、可愛くて。リリコとゆっくり昼まで寝る暮らしをまずは楽しみたいと思います」
とはいえ、銀座からの完全引退をするわけでもないようだ。
「いろんなお客様から『もっと小さい店でやったらいいじゃない』って、言われるんです。それはありがたいですね。昼まで寝る生活に飽きたら、あとはゆっくり、銀座での日々を文章にしてみようかと思います。
2021年に初のエッセイを出させてもらったことがあるのですけど、まだまだ書いてないことはたくさんありますから。その後、もし再びお店をやる機会に恵まれたら…やってみようかと思います」
ザボン最終日までの1週間は、お客様全員にプレゼントするためのゴルフボールを、かねてより付き合いのあったサントリーが出資。
そのボールには漫画家の北見けんいち先生と黒鉄ヒロシ先生のオリジナルイラストが。水口さんが再び銀座の店に立つ日がくることを願いたい。
取材・文/河合桃子 集英社オンライン編集部ニュース班