「チカラめし」に人材が流出し、「金の蔵」が弱体化した
こうして誕生した「チカラめし」は、当初、多くの店で行列が出来るほどの人気となる。また、SANKO MARKETING FOODSとしては、他の牛丼チェーンに対抗するため、急速に出店を伸ばし、人々の認知度を上げるねらいもあったという。急速出店はメディアも取り上げるところとなり、「チカラめし」は一躍、話題となる。
……が、その顛末は、読者のみなさんも知っている通り。その勢いは2年ほどで衰え、大量閉店が進んだ。「チカラめし」凋落の背景になにがあったのか。
長澤氏は、店舗の急拡大により、十分なサービスが各店舗で行われなくなってしまったこと、さらに牛肉価格が高騰したことを理由に挙げる。しかし、「チカラめし」の衰退には、さらなる要因があったという。
「2014年ごろから『チカラめし』は大量に閉店しました。その背景にあったのは『金の蔵』の弱体化です。なぜ弱くなったか。実は、『チカラめし』を拡大させるにつれて、『金の蔵』の優秀な店長を『チカラめし』に異動させていったのです。『チカラめし』にかける思いが強いあまり、こうした人材配置を生み出してしまいました」
優秀な人材の流出によって、「チカラめし」を支えていたはずの「金の蔵」が弱体化してしまったのだ。当然、『金の蔵』が弱くなれば、その売上が元手の「チカラめし」の運営も難しくなる。最悪の場合、共倒れだ。
こうした危機感を背景に、「チカラめし」の大量閉店が決められたのだという。
「鳥貴族」の勢いを後押ししてしまった「チカラめし」
そして、「金の蔵」自体も、コロナ禍のあおりを受けて、現在では池袋に1店舗を構えるのみとなった。
「金の蔵」と同業態の格安居酒屋として、現在大きな影響力を持っているのは「鳥貴族」だが、実は「鳥貴族」が大きく勢力を拡大した背景にも、「チカラめし」の影響があるのではないかと長澤氏は見ている。
「弊社が『金の蔵』から『チカラめし』へ注力し始めた時期に、鳥貴族さんが出始めたのです。そうした経緯もあり、格安居酒屋といえば、『鳥貴族』というようなイメージがいつのまにかついたのかもしれません」
いずれにしても、「金の蔵」も縮小を余儀なくされ、SANKO MARKETING FOODSは、会社全体として立て直しを迫られる自体に陥ってしまう。
「チカラめし」はリブランディングできるのか
さまざまな要因の中で、大量出店・大量閉店を、わずか数年の間で経験した「チカラめし」。
しかし、SANKO MARKETING FOODSは、「チカラめし」を見限ったわけではない。
「弊社にとって、『チカラめし』は、祖業の牛丼屋だということもあり、とても大事なブランドです」
こうした考えから、「チカラめし」は今年の5月、九段第二合同庁舎内に新規出店を行い、東京に帰ってきた。もともと、SANKO MARKETING FOODは、省庁の食堂事業の一部を受託していることもあり、一般人も入れる九段第二合同庁舎での新規オープンに際して「東京チカラめし食堂」をオープンさせたのだ。
オープン初日には、かつての「焼き牛丼」を求めて、多くのファンが詰めかけた。
「鎌ヶ谷(千葉)にあった店舗が再開発の事情で閉店する際、大阪から高校生がわざわざ来てくれたようです。それぐらい根強いファンが『チカラめし』にはいます。近年は会社自体を立て直さなければいけませんでしたが、やっと落ち着いてきたので、『チカラめし』のリブランディングを進めたいと思っています」
SNSなどでも話題になることが多い「東京チカラめし」。一世を風靡した「焼き牛丼」は再起できるのか。多くのファンの期待の中、その立て直しが期待されている。
構成/谷頭和希 写真/SANKO MARKETING FOODS提供
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