絶対に他では食べられない、あの味
――瀧さんと最後に行かれた時の写真もツイートされていましたが、あれはどんなタイミングだったんでしょうか。
(2022年の)2月に、笹塚に住んでる友達から「福寿が閉まるらしいですよ」っていう連絡があって、実は何年も前から小林さんからあの辺の再開発みたいな話は聞いてたんで、遅かれ早かれっていう感じはあったんですけど、そういう風に聞いた時も冗談で「まあ、小林さんの方が先に死ぬかもしれないよね」とか言ってたんだけど(笑)。
友達から「2月いっぱいらしいですよ」っていう話を聞いたんで、瀧とうちのマネージャーとかと食べに行ったんですよ。『福寿』の晩年って、すごい営業時間が短かったじゃないですか。13時ちょっと前に行くともう売り切れっていう日とかもあったんで、だからまだ閉まってる11時ぐらいに着いて近くに車停めて、もう張り込みっていう感じで待ってたんですよ(笑)。
開店と同時に入って。で、小林さんに「2月いっぱいだって聞いて来たよ」って言ったら、「そんなことないよ!誰が言ってんの」って、はぐらかされて。「あ、じゃあ、よかったよかった!」って言ってたのに結局5月に閉めちゃって。その時に、うちのかみさんが小林さんとLINEを交換してたんですよ。それまでは個人的に連絡を取り合うことってなくて、まあ店に行けば会えるんでね。
で、その直後に、小林さんがLINEで過去に『福寿』が海外のメディアに取材を受けた動画とかを大量に送ってきてくれて、なんかその時に、「もしかして」とは思ってたんですよ。小林さんもああいう人だから、「ここで閉めるから」って言うと人が押し寄せちゃうし、そうなったら捌ききれないだろうし、だからはっきりと言わなかったんだと思うんですけどね。
――僕もずっとはぐらかされていて、はっきりと店を閉めるっていうのは結局今もずっと言われてないんですよ。
うん。あの人らしいですよね。だから2月に行っておいてよかったなって。それがまた5月に閉まるって聞いていて行ったりすると、せっかく小林さんがそういう風に小林さんなりの接し方をしてくれたのに、それを台なしにしちゃうような気がして、あれはあれでよかったかなって。
ちなみに最後に『上チャーシュー』を頼んだんですけど、『もう上チャーシューやってないんだよね』って言われた。一日に出す分って限られてるじゃないですか。「でもまあ卓球さんだからいいや、特別だよ!」って言って出してくれたんですよ。そしたら、後に来たお客さんにチャーシューが入ってなかった(笑)。悪いことしたなっていう。
それが最後でしたね。でも、あれ以上求めちゃいけないなって。ここ数年っていうか、10年ぐらいかな、前ほどの頻度じゃないですけど、たまに禁断症状が現れるんですよね。あの味は他のところでは食べられないから。あそこじゃないと。
#2 ラーメンより失ったもの…電気グルーヴ・石野卓球が語る「福寿」 につづく
取材・文・撮影/スズキナオ インタビュー撮影/高木陽春