美化せずに人の死を描く覚悟

――そして今作は戦国時代を描くにあたって、落城、そして戦の描写もとてもおどろおどろしいですね。

佐藤 前作ではあまり激しい描写はしてこなかったのでこれも初めての挑戦でした。初稿はもう少し控えめな描写だったのですが、担当編集さんから「もっと書いていい」と言われて。その一言で、私の中のセーブが外れましたね。血や、城が焼け落ちる臭(にお)いが立つように、そして命を落とす者がいるという現実が見えてくるように。私は、人の死を書くにあたって、それを美化するような書き方だけは絶対にしたくないなというのがあって、誰かが命を落とすのであれば、それはしっかりと書かないといけないなと思っています。連載というのも初めての挑戦だったので、担当編集さんの助言や率直な感想は、最終回までずっと支えられましたし、励みにしていました。

――まさに、小谷の落城から、大坂の陣まで、人の死から目を背けることなく書かれた作品ですね。それでは最後に、読者の方へメッセージをお願いいたします。

佐藤 私は作品を書くにあたって、歴史小説を読んだことがないような方でも楽しんでいただきたいという思いがあります。茶々と治長のことを知らないという人であっても、歴史小説と身構えずに読んでほしいなと思います。
 幅広い年齢の方に楽しんでほしいのですが、若い方々にも読んでもらいたいなと思います。この作品をきっかけに、少しでも歴史に興味を持って、ほかの歴史小説を読んでみようと思ったり、歴史上の好きな人物を見つけてくれたりしたら、何よりも嬉しいです!

「小説すばる」2022年6月号転載

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