アジアの映画人に言われた「日本ってガラパゴスだよね」の言葉
──尚玄さん自身について伺いたいのですが、この『義足のボクサー』で昨年釜山映画祭のキム・ジソクアワードを受賞されています。昨年、公開された『COME AND GO』はアジア各国から大阪へとやってきたアジア人がクロスオーバーする群集劇で、尚玄さんはいろんな夢と欲望をもって大阪に来た人々を冷静に仕分けするような役回りでした。
つい先日までは、日本での戦争体験の悪夢を題材にした『コントラ』で話題を呼んだインド人監督、アンシュル・チョウハン監督の新作に出演されていたと聞いています。東京、沖縄をベースにダイレクトにアジア圏の映画人と英語でやりとりできるポジションは尚玄さんならではですし、かなり特殊な立ち位置を築いていますよね。
「早めに海外に目を向けられたということは、今振り返ると幸運なことだったと思います。だから今の自分がある。『義足のボクサー』のプロデューサーの山下貴裕さんが、アンシュル・チョウハン監督のプロデュースを引き続きやってくれているんですけど、それは今回の映画で結果を出したから。今後も日本とフィリピンをつなげていけるいいきっかけだと思います。
ただ、そこにもうちょっと日本のマスメディアに注目してほしいなという希望はあります。釜山での受賞の翌日、日本で報道が全く出なかったんです。あとでひとつ、知り合いのライターさんがウェブで記事にしてくれたけど。それはちょっと悲しかったですね。
アジアの国際映画祭に行くと、例えばインドネシアなど、若い世代の新しい才能がたくさん出てきていて、彼らと話す機会があるんですが、そのとき、『日本ってガラパゴスだよね』と言われてしまったりすることがあります。僕は死ぬまで演技を続けたいという希望を持っていますので、丁寧にアジアと日本をつなげていければと考えています」
義足のボクサー GENSAN PUNCH
カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』をはじめ、『ローサは密告された』『罠 被災地に生きる』など不条理な社会でもがき、いきる人々の強さを描いてきたフィリピンの名匠ブリランテ・メンドーサが、プロボクサーを目指して日本からフィリピンに渡った青年の実話を基に描いたヒューマンドラマ。
沖縄で母親と暮らす津山尚生(なお)は、プロボクサーになる夢を抱くが、幼少期に右膝から下を失い、義足を理由に、プロライセンスへの挑戦が出来ないでいた。諦めきれない尚生は、フィリピンでの挑戦を決意。プロを目指す大会で3戦全勝すればプロライセンスを取得でき、義足の尚生でも試合前にメディカルチェックを受ければ、ほかの者と同じ条件で挑戦できると聞き、尚生はトレーナーのルディとともに、慣れない異国の地でボクサーへの第一歩を踏みだすが……。
監督:ブリランテ・メンドーサ
プロデューサー:山下貴裕、クリスマ・マクラン・ファジャード、尚玄
出演:尚玄、ロニー・ラザロ、ビューティー・ゴンザレス、南果歩ほか
2021年製作/110分/G/日本・フィリピン合作
原題:Gensan Punch
配給:彩プロ
沖縄先行公開中
6月3日(金)TOHOシネマズ日比谷にて先行公開
6月10日(金)全国公開
『義足のボクサー GENSAN PUNCH』公式サイト
© 2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会
撮影/菅原有希子