良いことばかりではない? 生成AIが普及することによる長期的な負の影響。デジタル空間の全てを疑いの目で見る世界と、人間の関係が希薄化する懸念
「AIに聞けばなんでも解決する」ということは、裏を返せばAI以外のものに一切頼らなくなるということである。そしてそれはともすれば個人個人の人や組織との関係が希薄になるということでも……そう指摘するのは書籍『生成AIで世界はこう変わる』の著者、今井翔太氏だ。規制や我々の知識が追いつかないまま成長を続けるAI生成のディープフェイクの危険性ついて、書籍より一部抜粋して紹介する。
生成AIで世界はこう変わる #2
情報の送り手と受け手の
つながりが希薄化する?
本章の冒頭で、「AIに聞けばなんでも解決する」世界がやってくると述べました。単純な質問の解決だけでなく、創作などもAIによって生成されたものを参考にすることが多くなってくるかもしれません。ユーザー視点では、得られる情報が検索よりも質が高いものになる、探しやすくなるなどの利点があるでしょう。
しかし、「AIに聞けばなんでも解決する」ということは、裏を返せばAI以外のものに一切頼らなくなるということです。今までは、自分だけでは解決できない問題に遭遇した場合、身近な人に聞く、検索によってたどり着いた記事を参考にする、他の人によって作成されたコンテンツを参考にするといった手段で解決を試みていました。
この過程で、アドバイスを求めて話を聞いた人、参考となる資料やコンテンツを作成した人、あるいは認知した企業などの存在を、なんらかの形で意識することになります。その結果、人や組織との関係が生まれる、個人や企業のプロモーションにつながる、参考にした相手への敬意が生じるといったつながりが生まれていました。
ところが、AIによって解決される範囲が増えすぎると、これらが希薄化する懸念があります。
情報発信やコンテンツの作成を生業としている側の視点では、この事態は致命的です。プロモーションの機会が失われることで、利益の減少にも直結します。特に、活字媒体の利用には大きく影響するでしょう。
この事態を軽減するためには、生成AIの生成結果に出力の根拠の引用を含めるといった処置が考えられますが、現在の生成AIのモデルそのものには、出力から学習に使用したデータの出典を特定する機能は存在しません。今後は出力結果から類似度検索を実行し、できる限り出典を開示するようなシステムの需要が出てくるでしょう。
写真/shutterstock
#1 すでに見抜けないAI技術 人かAIかは背景情報にしかなりえない
#3 日本のAIに関する法律と、規制が困難な現状
生成AIで世界はこう変わる(SBI新書)
今井翔太
2024年1月7日
990円
256ページ
ISBN:978-4815622978
新進気鋭のAI研究者が大予測! 生成AIで変わる私たちの仕事・くらし・文化
話題の生成AI、どこまでなにができる?AIって結局、どんなしくみで動いているの?
最新テクノロジーで私たちの仕事は奪われる?AIで働き方や生活がどう変わるのか知りたい…
ChatGPT、Bing、Claude、Midjourney、Stable Diffusion、Adobe Firefly、Google Bard…今世紀最大ともいえる変革を全世界にもたらした、生成AI。
この時代を生きるわたしたちにとって、人工知能をはじめとする最新テクノロジー、そしてそれに伴う技術革新は、ビジネス、社会生活、娯楽など、多様な側面で個々人の人生に影響を及ぼす存在となっています。
ただでさえ変化スピードが速く、情報のキャッチアップに苦戦するテクノロジー領域。数か月後には今の状況ががらりと変わってる可能性が非常に高い…そのような状況下で、今私たちは生きています。
ホットな話題でいえば、「クリエイターはみなAIに取って代わられるのでは?」「人間にしかできない価値創造ってなに?」など、これまで当たり前だと信じて疑わなかった「労働」「お金」「日常生活」などのパラダイムシフトが起こっています。
そんな今、まさにみなさんに手に取っていただきたいのがこの1冊です。この時代を生きる多くの方が抱いているであろう不安や疑問、そして未来への興味関心に、本書はお応えします。本書では、AI研究の第一人者である東京大学教授・内閣府AI戦略会議座長を務める松尾豊氏の研究室所属の今井翔太氏が、生成AIで激変する世界を大予測!