新証拠提出で新たな自殺ストーリーを描いた裁判所
「クロ現」の報道は朴被告にとっては追い風となったのだろう。最高裁は2022年11月、「関連する証拠の審理が尽くされておらず、重大な事実誤認の疑いがある」と審理を高裁に差し戻した。
言わずもがな日本の裁判制度は三審制で最高裁まで争えるが、実際に最高裁で審理が覆るケースはほとんどない。にもかかわらず、殺人という重大犯罪で、最高裁が今までの裁判結果を破棄してやり直させるという異例の判断をしたのだ。
その争点となったもののひとつに佳菜子さんの額にあった3センチほどの深めの傷がある。この傷からは出血があり、佳菜子さんの衣服にも付着していた。遺体を切っても出血はしないため、心臓が動いているときにできたものとされるが、弁護側は「もみあいの後に佳菜子さんが負った傷で、自身は関与していない」と主張している。つまり寝室では殺していないという根拠のひとつだ。
「これに対し検察は、この傷が朴被告が佳菜子さんを絞殺し、まだ心臓が動いている段階で階段から突き落とした際にできたものと反論しました。死の間際だが、まだ心臓が止まっていないから出血したという主張です。1審の東京地裁は血痕の箇所が15ヶ所と少ないことから、検察の主張を認めた。弁護側の主張が正しいとすると、血痕が少なすぎるという論理でした。
しかし、2審で新たな証拠が提出され、血痕が28ヶ所もあった。すると、高裁は地裁の判断を誤りとしながらも、『意識があるときの傷ならば、遺体の顔や手に血の跡は残るはずだが、それがないことからやはり検察側の主張が正しい』と認定し、有罪判決とした。生きている普通の人ならば出血していれば、それを拭ったりするということです。
ただし、この顔の血痕の有無は、裁判所が突然、持ち出した“不意打ち”ともいえるものでした。裁判では顔の血痕は話題になっておらず、議論されていないものを持ち出して有罪判決を書いたんです。
しかも顔の写真は不鮮明なもので、後に弁護側が入手した鮮明な写真には血の跡も残っていた。このあたりも含め、有罪ありきのかなり荒い内容の判決だったんです」