ハンターの彼女にとって男は獲物なのである

この展開に持ち込んだのは、まさに彼女の本領発揮といったところだろう。ハンターの彼女にとって男は獲物なのである。狙ったものは何が何でも逃さない。

しかし男も男である。結婚が間近に迫っているというのに、何を寝ぼけたことを言っているのだ。

「それからはもう一気に燃え上がったって感じです。そのまま私の部屋に来て、そういう関係になりました。最初は彼も迷っていたと思います。でもひと月後には、出会う順番を間違えた、婚約は解消するから君と結婚したいって、私を選んでくれたんです」

やっぱり略奪した。

「私は略奪した意識はないんです。自然の流れとしか言いようがなくて」

彼女は真顔で言う。こうやって自分すら納得させてしまうのが、この手の女の厄介なところである。

本音を言わせてもらうけど。

「はい、何でしょう」

あなたは自分に男を見る目がないことを知っているから、他人の選んだ相手なら間違いないと思えて、いつも略奪に走ってしまうと判断していい?

彼女は少し考えた。

「もしかしたら、そうかもしれません」

私が言うのも何だけど、かも、ではなくてそうだと思う。

「同僚には申し訳なかったと思っています。けれど本当に悪気はなかったんです」

悪気がない、その言い訳が通用すると思っているところが、まさにそれを裏付けている。

その後、同僚女性とは?

「他人の男」を奪い続ける44歳女性の言い分「私、恋愛体質なんです」「女友達はいません」…関わる人を地獄に落としまくる恋愛模様の裏側_4

結婚後は気分転換に、大学時代に付き合っていた彼にSNSで

「揉めたし、恨まれたし、罵られもしました。会社でも噂になって、結局、転職することになりました。彼は、同僚女性をとても気に入っていた両親に泣かれて、婚約不履行の慰謝料や式場のキャンセル代もあって大変だったようですけど、1年後には晴れて結婚することができました。2年後には娘も生まれて幸せいっぱいでした」

まあ、いろいろあったにしても、とにかく一件落着となったわけだ。

「それが……」

まだ続きが?

「育児休暇を終えて、娘が保育園に入った頃から、時々空しい気持ちに包まれるようになったんです。だって、朝起きて朝食の支度をしながら洗濯機を回して、夫を会社に送り出して、娘を保育園に連れて行って、日中は仕事に追われて、退社後はスーパーで買い物して、娘を迎えに行って、帰って夕食の用意をして、お風呂に入ったら、もうくたくた。毎日がその繰り返しなんですから」

それが現実。それがあなたの望んだ暮らし。何も虚しくなんかない。そんな日々の中で人は幸福を見出してゆく。

「だんだんと、本当にこれが私の望んでいた生活だったんだろうかって、疑問が湧いて来るようになったんです。娘のことはすごく愛していましたけど、その頃にはもう、夫は男というより娘のパパとしか思えなくなっていました。夫に婚約破棄でのしかかった借金返済が残っていて、いろいろお金に細かいこともストレスだったし、私と義父母との関係もよくなくて、ずっと冷たい態度で接せられるのも納得いきませんでした」

借金は夫だけのせいではなく、あなたとふたりのことが原因で出来たものだし、義父母がなかなか蟠りを捨てられないのも当然だろう。前の婚約者を気に入っていたのなら尚更だ。息子を情けなく思う以上に「この女さえちょっかいを出さなければ」という思いは、そう簡単には拭えないはずだ。

けれども、不満はあるにしても、そこまでして手に入れた夫ではないか。経済的に少々辛くても、夫は真面目に仕事をしているし、娘はすくすく成長している、生活もそれなりに安定している。他に何を望もうというのだろう。

「そうかもしれません。でも、もやもやは溜まる一方で、それで別に深い意味があったわけじゃないんですけど」

彼女のこのエクスキューズにも慣れて来た。

「気分転換に、大学時代に付き合っていた彼にSNSで連絡してみたんです」

このパターンは彼女の王道とも言える。

「すぐに返信があって、一度会おうってことになりました」

どんな気分だった?

「やっぱりわくわくしました」