戦争ができない国
人口問題は安全保障の危機にもつながる。日本の高齢化はすでに世界一であり、75歳以上人口(後期高齢者)は1937万人を数える。人口の突出して多い団塊の世代(1947〜49年生まれ)が後期高齢者になる時期が目前に迫っており、政府は2040年度に必要な介護人材は約280万人と想定している。
近年、東アジア情勢の不安定化から日本の軍事力の強化が叫ばれているが、そもそも高齢化した日本は長期の戦争に耐えられる状態ではない。エネルギーや食糧などの補給路が断たれ、また介護士を含むエッセンシャルワーカーと呼ばれる日本の基盤を担う若者が戦争に駆り出されれば、ケアを受けられず放置される脆弱な高齢者が大量死に直面する可能性がある。
つまり超高齢化社会の日本は戦争の前線で人が死ぬよりも、むしろ取り残された高齢者がバタバタと倒れる結果、多くの犠牲者が出ることになるだろう。敵対する国は日本のこの弱点を突くだろう。そう考えれば、すでに日本は実質的に戦争ができない国になっている。
そもそも自衛隊自体も隊員不足に悩んでいる。2022年3月31日現在、自衛隊員の充足率は93.4%に留まる。また日本全体の高齢化に対処して、自衛隊は入隊の採用年齢の上限を2018年に一挙に6歳引き上げ32歳までとした。自衛隊員も少子化、高齢化から逃れることはできない。
そんな日本にとって頼みの綱はアメリカだ。しかし、人口減少とともに、日本の経済力が衰退すればアメリカは日本をいつまで重視してくれるだろうか。
2030年には日本のGDPはインドに抜かれ、世界第4位に
現在、日本の脅威とされる中国だが、かつて日本の経済力は極めて大きく中国の経済とは雲泥の差があった。2000年の時点で日本のGDPは中国の4倍の大きさ、まさに圧倒的な違いがあった。
しかし、日本の退潮に呼応するかのように中国の経済力は増していった。2010年に中国は日本のGDPを追い越し、2020年には中国はたった10年で日本の3倍近い差をつけてしまった。
では将来はどうなるのか?
世界最大級のコンサルティング会社PwCが2017年に発表した調査レポート「2050年の世界」では、2030年と2050年の世界各国のGDPの予想を発表している。
それによれば2030年には日本のGDPはインドに抜かれ、世界第4位となる。アメリカを抜いて中国がトップとなり日本との差は6倍となる。
2050年には日本はインドネシア、ブラジル、ロシア、メキシコにも抜かれ世界第8位となり、中国は日本の8.6倍、つまり日本のGDPは中国の11.5%となる(図2)。
アジアの中規模国の一つになってしまえば日本の外交力は格段に下がる。アメリカが日本を同盟国として尊重するのは日本の国力があってのことだ。日本が中国の1割程度の経済力の国になればアメリカの日本に対する見方も変わるだろう。
中国の圧力に対して日本は自国を守り切れるのか、人口問題は日本の国家安全保障とも直接的につながることになる。