借金を返すためにギャンブルする負の連鎖…そして、失踪
当時、中竹さんには交際中の女性がいた。言いづらかった自分の借金の問題を正直に打ち明けると「借金はコツコツ返していけばいいだけだから問題ではない」と前向きな態度を示してくれた。
しかし、数か月後に彼女の妊娠が発覚すると、中竹さんの心はまた安定を失う。
「自分がこんな借金まみれなのに、どうやって子供を育てていけばいいんだろうって、考えていたらどんどん不安になっていきました。なんとかして借金をなくそうと思ったんですが、その方法にまたギャンブルを選択してしまいました」
ギャンブルで負けた金をギャンブルで取り返そうとする思考は、ギャンブル依存症者に多く見られる特徴だという。中竹さんの目論見は外れて、借金はさらに数百万円にも膨れ上がる。こうした裏切りを何度も重ねた結果、当然彼女は離れていった。
所属するジムの会長にも散々迷惑をかけた。中竹さんは会長が所有する貴金属を勝手に質屋に入れたこともあったという。しかし、それでも会長は変わらず中竹さんを見守り続けた。
「自分がどれだけ酷いことをしても、何度も裏切っても、会長は僕を怒るのではなく、ただただ叱るんです。本当になんとかしたいと思ってくれていたのでしょう」
こんな状況でもキックボクシングは続けていた。
「大きな大会で勝てば、人生一発逆転が掴める」そんな思いで、試合に向けて過酷なトレーニングを積み、全身全霊で挑んでいた。しかし、試合が終わって緊張の糸が切れると、心にぽっかり大きな穴が空いたような気持ちになった。その穴を埋めるために、またギャンブルへの欲求を抑えられなくなってしまうのだ。
2020年、5月に控えていた大事な試合に向けて、中竹さんはスタッフと一丸となって調整をしていた。しかし、新型コロナウイルスの蔓延により試合は延期。行き場を失った闘志はギャンブルへの意欲となり、依存症が再発した。
この頃、中竹さんはギャンブルのためにジムの門下生に借金をしていた。ある日、そのことが会長の耳に届く。そしてすぐに、仕事をしていた中竹さんの元に、会長から大量のLINEが送られてきた。メッセージを読まなくてもわかった。借金がばれたのだ。
何度も同じ問題を起こして、何度も身の回りの人達を裏切り続けてきた。それにも関わらず、どうしてもギャンブルに手を出してしまう。もはや、会長に合わせる顔がないと思った中竹さんは失踪した。
「当時は、オンライン競艇をメインにやっていたのですが、競艇は夜9時頃に終わります。24時間遊べるオンラインカジノの存在を知らなかったので、競艇が終わると嫌なことを忘れさせてくれるギャンブルができずに、現実と向き合わなければならなくなりました」
過去にも何度か失踪したことがあったが、今回は少し違った。酷くなる一方の自分のギャンブル癖に疲れ果てていたのだ。
「こんな生活を続けていたら、何か事件を起こして刑務所に入るか、いつか変なところから金を借りて、最後は殺されるかもしれないと真剣に考えていました。そうして、ギャンブルをどうにかしないと自分は生きていけないと考えたときに、自分がギャンブルで失踪する度に家族が話していた依存症の回復施設のことを思い出したのです。以前は『そんなもの』と歯牙にもかけませんでしたが、この時はようやくお手上げになりました」
その後、インターネットで見つけた依存症回復施設「グレイス・ロード」に連絡し、施設に入った。