――毎月様々なテーマで選書をされているそうですが、これまでにユーザー同士で連絡先交換率の高かった本はどんな本ですか?

森本 この連絡先交換率(以下、交換率)のランキングは今回初めて調べてみたのですが、『しゃべれどもしゃべれども』(佐藤多佳子)という落語を題材にした本が1位、『悲しみよ こんにちは』(サガン)が2位、『間宮兄弟』(江國香織)が3位、という並びでした。
『しゃべれどもしゃべれども』は、「本屋・美術館・プラネタリウム・落語のどこに行きたいですか?」というテーマで選書をした月の1冊でした。その4種類の中で、落語を選んだ人が最も少なかったのですが、交換率で見るとトップ。他の月にも同じ現象が起きています。つまりChapters内で売れ行きの良い本と交換率の良い本のランキングが、全く一致しないんですね。
もちろん、売れ行きが偏らないように選書をしているつもりなのですが、2作品以上あると、その差は自然に出てしまいます。売れ行きの良い本だから会話が盛り上がるというわけではなく、むしろ少しニッチな作品で出会えた方が嬉しいのかもしれません。
「初対面の出会いに同じ本が介在し、話のきっかけになれば、きっと出会いのハードルが下がるだろうな」という、私の妄想から始まったサービスだったので、実際にそんな現象がChapters内で起きていることが嬉しくて、面白いなと、感動しました。

本と出会い、人と出会う 出会いを提供するオンライン書店×マッチングサービス『Chapters』とは?_e
佐藤 多佳子『しゃべれどもしゃべれども』、新潮文庫、2000年
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フランソワーズ サガン『悲しみよ こんにちは(河野万里子訳)』、新潮文庫、2008年(1954年発表)
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江國 香織『間宮兄弟』、小学館文庫、2007年

森本 ただ、サービスを立ち上げて実際にお客様に触れてみると、マッチングサービスとして使う人が全体の半分。もう半分は純粋な選書サービスとして使うお客様なんですね。
「今月この本を読んで楽しかった」とか、「ビデオチャットには参加してないけど1年続けています」ということをSNSで言ってくださるお客様もいらっしゃいました。
Chaptersでは本との出会いも楽しんでもらえるように、推薦文と本の情報だけを公開し、あえて作品名と著者名は隠して、直感で選んで頂く仕組みにしています。
「何の本かは家に届いてからのお楽しみ」という部分も、お客様に気に入っていただいている要素の一つだと感じています。

――このサービスを立ち上げたきっかけはどのようなものでしたか?

森本 私のキャリアは広告代理店から始まり、その後3度の転職を経験しました。その過程で「自分自身でお客様を持つサービスがしたい」という気持ちがずっとありました。
一方で私生活では「マッチングアプリをずっとやっているけど、全然出会えないな」とか「最近、読書の感動を誰かとシェアできる場所が無いな」と感じていて。
そうした仕事とプライベートでの経験から、 “本で人と人が出会うマッチングサービス”というコンセプトで起業することに決めました。とはいえ、細かな部分までのイメージは出来ていませんでした。

今でも覚えていますが、2019年の1月、たまたま金曜ロードショーで映画『耳をすませば』を観たら、自分の中でうごめいていた色々な感情が一本に繋がったんです。「これだ!」という稲妻に打たれ、大号泣してしまいました。
自分が使ってきたマッチングアプリは、収入や身長といった条件を入れて相手を検索することができます。だけど、実際に自分が好きになる人って、そういった“条件”とは、全然関係ないことの方が多くないですか?「喋り方が良いな」とか「なんとなく居心地が良いな」とか、そういう言葉では表現し難いところになぜか惹かれる。
『耳をすませば』の中の2人も、 “条件から入る恋愛”ではなく、互いに自然と惹かれ合う。そんな10代たちの姿に心打たれ、「私もこういう恋愛を求めていたはずだ」と気付いたんですね。
そして、自分がマッチングサービスを作るのならば、この恋愛観をピュアに持ったまま作ろう、と覚悟が決まりました。