日本の入ったグループEの4ゕ国は2強2弱。今後、各国のブックメーカーが発表するグループステージ突破のオッズは、ドイツとスペインが大本命になり、日本とは大きな差がつけられるはずだ。2位以上が突破できるという規則上、日本にとっては厳しいグループとなった。
そんななか、W杯で日本が勝ち上がるためにはどう戦えばいいのか。
今回のW杯は過去に各国を悩ませてきた“あの問題”がないことが大きな特徴だ。カタールの国面積は約11500 k㎡。秋田県とほぼ同等の広さであり、非常にコンパクトな立地で行われるストレスフリーなW杯となる。思い返せば、過去3大会では試合のたびに飛行機で何時間も移動し、ホテルも変わり……滞在先では暑い、寒い、高地、低地といった問題に、各チームが悩まされてきた。
カタールW杯日本代表の勝ち筋は!? 初戦・ドイツ戦が鍵となる!
2022年11月に開幕するカタールW杯のグループ分けが決定。抽選の結果、日本はドイツ、大陸間プレーオフ2勝者(ニュージーランドvsコスタリカの勝者)、スペインと同じグループEとなった。圧倒的不利という下馬評の中でグループステージ突破の可能性を探る!
2強2弱! グループEの正当な評価

ブラジルW杯では慣れない気候のなか暑熱順化にも苦しんだ
カタールではそうした負担がない。試合ごとにホテルを変える必要がなく、試合は近距離のバス移動でOK。これはコンディション上、大きなプラスになる。コロナへの懸念はまだあるものの、今大会は各チームが高いパフォーマンスを目指しやすい環境と言える。
唯一デメリットを挙げるなら、開催時期だ。6月に行われる通常のW杯とは異なり、11月は強化合宿を組めるほど、直前の準備期間が用意されていない。ただ、逆に欧州リーグはシーズン中であるため、欧州でプレーする選手のコンディション不安が少ないのはメリットになる。
開催時期は一長一短だが、総合的に考えると、カタールW杯がパフォーマンスを期待しやすい大会であるのは確かだ。だが、そうなるとますます日本がドイツやスペインにつけこむ隙はなくなってくる。
では強豪国ならではの油断、というものに期待してみようか。
一般的に強豪国は、決勝トーナメント以降を見据えて大会に臨むため、グループステージではコンディションを全開に仕上げてこない、と言われている。強豪国は1ゕ月に及ぶ大会の後半にピークを持ってくるため、尻上がりの調整にすることが多い。
だからこそ、その尻が上がる前にフルスロットルで叩きたい。
初戦のドイツ戦がすべてを左右する
実際、強豪国が一泡吹かされてグループステージ敗退するサプライズは、これまでの大会ごとに起きてきた。
2006年ドイツW杯で優勝したイタリアは、王者として臨んだ2010年南アフリカ大会で1勝もできず、まさかのグループステージ敗退に終わった。同大会で優勝したスペインは、次の2014年ブラジル大会でグループステージ敗退。さらに同大会で優勝したドイツも、2018年ロシア大会でグループステージ敗退となった。
前回王者がグループステージで姿を消すことは、もはやサプライズとは呼べない定番だ。油断が大敵であることを示す、W杯の歴史とも言える。ならば、相手が強豪国だからこそ、日本はつけこむ隙があるのではないか?
……と考えてはみたが、実は今回はそれも難しい。
特にドイツは、ロシアW杯で苦汁をなめたばかりだ。今回は傷つけられたプライドを取り戻す戦いであり、第1戦からモチベーションは高いはず。初戦でメキシコに黒星を喫した前回大会のようなアクシデントは期待できない。一方のスペインも近年は国際大会の好成績から遠ざかっており、油断するような要素はない。

ロシアW杯では初戦のメキシコに敗れて前回王者ドイツが敗退した
ともすれば前回王者のフランスのほうが、つけこむ隙はあったのかもしれないが、今のドイツとスペインに油断を期待するのは難しそうだ。外部要因に期待せず、堂々と上回るしかない。己を磨き、相手を研究し、最適な戦略を立てる。それ以外に方法はない。特に重要なのはドイツ戦だ。
初戦が大事である理由は、今更言うまでもないので省略する。どう戦えば、ドイツを倒す可能性が見えてくるのか。
昨年に就任した元バイエルン・ミュンヘン監督、ハンジ・フリックが指揮するドイツは、一言で言えば「モダンなサッカー」をする。ポゼッションを握ってハイラインで相手を押し込み、奪われたボールは敵陣で即時奪回。中央に厚みを増やしたワンタッチのコンビネーションが多く、攻撃にダイナミズムがある。Jリーグでいえば、横浜F・マリノスのサッカーに近い。
強豪ドイツに一矢報いるために
仮にドイツに油断があれば、日本がハイプレスで奇襲することは有効だが、今大会のドイツに奇襲が有効とは思えない。彼らは挑戦者だ。うかつに前がかりになれば、ドイツが伝統的に得意とするダイレクトカウンターの矢を受け、大量失点でジ・エンドもあり得る。
ここは丁寧に、相手の長所に対応するのが上策。そのためには堅固な守備力を誇る[5-3-2]の布陣を推したい。

対ドイツ戦5-3-2
【DF】ドイツの攻撃は、世界的プレイヤーのレロイ・サネら両ウイングが中央へ入り、中央の厚みとサイドの幅を使うことが特徴的だ。通常通りに4バックで対応すると、中と外の連動で振り回されやすい。そこで、予め中央をCB3人+MF3人で相手の攻撃に対応し、サイドは1人ずつ対応する。相手がねらうスペースに、あらかじめ人を立たせることで、守備の混乱を防ぐことができる。
ただ、問題はこの自陣で受け止める守備から、どうやって攻撃に転じるかだ。
【FW】鍵は、2トップ。序列的には大迫勇也と南野拓実ではあるが、ドイツは両サイドバックが高い位置を取り、2バック気味になることをふまえれば、サイドの裏へ流れる飛び出しに長けた、古橋亨梧がキーポイントになる。
大迫が相手CBににらみを効かせて、古橋がサイドの裏へ飛び出す。ロングカウンターの形はある程度見えそうだ。あるいはドイツが対戦の相性上で苦手とするスペインの流れを組む、久保建英も面白いかもしれない。
【MF】2トップで起点ができれば、中盤は走力のある原口元気の起用を推したい。大迫、古橋に続く3人目として、原口が前線へスプリントすれば、ロングカウンターが成立する。原口は守備強度も高いので[5-3-2]の布陣との相性は抜群だ。
[5-3-2]の難点としては、守備的なプランなのでウイングの三笘薫のドリブル突破を生かせなくなることが挙げられるが、三笘はジョーカー起用として温存する。
ドイツ戦で引き分け以上の結果を残せば、次は2戦目。ここは勝ち点3を計算しなければならないので、日本は本来の攻撃的な[4-3-3]に戻せばいい。このように1戦目と2戦目は、まったく異なるゲームプランを立てることが、有効になるだろう。
今大会のトレンドになる「セット起用」が鍵となる
過去のW杯には必ず大会ごとにトレンドがあった。
ロシアW杯を思い返すと、史上初めて「VAR(ビデオアシスタントレフェリー)」が導入されたため、細かいファウルが多く、PKも増えた。さらに、守備側がファウルを恐れるあまりマンツーマンで守りづらく、イングランドなどが工夫したCKで得点を量産するなど、セットプレーに特徴が出た大会だった。ルールの変更は間違いなく、戦術や戦略に大きな影響を与える。
その意味で今回注目したいのは「交代選手の数が3人から5人に増える」ということだ。コロナ禍で始まった暫定措置だが、今後は正式なルールとして導入されることが濃厚になってきた。
これは筆者の予想になるが、今回のW杯は“セット起用”がトレンドになるのではないか。
5人交代できるということは、フィールド選手の半分を入れ替えられるということ。フットサルでは、選手をファーストセット、セカンドセットの組み合わせに分け、それぞれの連系をベースとした2チーム分で、1試合を戦うことがセオリーとなる。サッカーもこれに近い戦略が用いられるかもしれない。
たとえば日本の場合、Jリーグで常勝を築きあげている川崎フロンターレ出身選手の連携を強みに、“セット起用”した攻撃布陣をファーストセット。もう一組は、強度が高いカウンターが得意な選手3~4人に入れ替え、これをセカンドセットとする。まるで前半、後半で別のチームが戦うかのように。
代表はトレーニング機会が少ないため、連系を育てるのが難しいと言われているが、所属クラブで一緒にプレーしてきた選手を“セット起用”してしまえば、連系の問題はある程度解決できる。このあたりは森保ジャパンにうまく生かしてほしい、今大会のポイントだ。
最後に、3戦目のスペインについてはほぼ触れなかったが、大会前からスペイン戦をアレコレ言っても、その大半は徒労に終わるので、ここでは触れない。
3戦目の展望は、1戦目と2戦目の結果に大きく左右される。仮にスペインが2連勝で突破を決め、日本戦にサブ組を並べてくるのなら、ハイプレス等の奇襲が有効だろう。だが、スペインが勝ち点を取り切れず、緊張感を伴って3戦目に挑む場合は、日本も慎重に戦ったほうがいい。そこは状況次第なので、今からゲームプランをアレコレ言っても徒労でしかない。
とにもかくにも、重要なのは1戦目のドイツ戦と、2戦目に向けた準備だ。
かなり悲観的なグループに入ったことは確かだが、昨今の日本人選手の成長を見れば、準備次第ではドイツを落とすことも不可能ではない。
写真/アフロ
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