「何を見せられるかを知りたい」

2022年3月、世界選手権が終わった翌日の会場にいた髙橋大輔は脱力感と、充実感に一滴の無念さを混ぜたような表情をしていた。

その時点で、アイスダンサーとして現役を続行するか、去就を明らかにしていなかった。駆け抜けてきた2年間を吟味し、未来を決める必要があったのだ。

――続ける場合、何を見せたいですか?

そう訊ねた時、髙橋はいつものように誠実に言葉を探した。

「うーん…何を見せられるか、分かり切れていません。どこが最終か、ピークが分からないから、何を見せたいかも言えなくて。もし続けるなら、それを知りたいです。何を見せられるのか、を知りたい」

それは彼が辿り着いた真理だった。

「大ちゃんの言葉を聞いて、しっくりときました。私もわからないですね」

横に座っていた村元哉中は、意を得たような表情で髙橋を見て、こう言葉を続けた。

「自分も大ちゃんとアイスダンサーとして再スタートし、2年間やった上で成長したなって感じていて。だからこそ、大ちゃんと次は何ができるんだろう、どう成長して、どんなチームになるのかってすごく思います。大ちゃんとなら、いろんな世界観を出して表現ができるはず。やってみないとわからないからこそ、わくわく感があります」

カップル結成2年目で、コロナ禍のために練習、試合も思い通りにならない。髙橋に至ってはシングルから転向した“初心者”だった。逆風にもかかわらず、「超進化」と言われる勢いで二人は世界へ躍り出た。

2021-22シーズン、NHK杯、ワルシャワ杯で日本アイスダンス歴代最高得点記録を連発し、度肝を抜いた。

四大陸選手権では、チャンピオンシップにおける日本勢史上最高位の銀メダルを獲得。加えて、世界選手権にも堂々の出場(16位)を果たした。ISU(国際スケート連盟)シーズン世界ランキングは15位で、国内では断トツ1位だ。

かつて日本国内で、これほどアイスダンスが注目されたことはない。二人はスポーツの歴史を変えた。新時代を切り開いたのだ。