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なぜ自転車なのか

健康づくりのために、運動が必要なことは誰もが知っています。では、どの程度の運動が必要なのでしょうか。米国スポーツ医学会は、健康づくりのための運動として「50%程度の運動強度で、1日に30分間、週に5回、または70%程度の運動強度で、1日に20分間、週に3回の有酸素運動を行う必要がある」としています。

50%以上の運動強度といわれても、どれくらいの運動をすればいいのかよくわからないと思います。運動強度については2章で詳しく解説しますが、とりあえずいまは、息が切れてもう動けないというときの運動強度を100%とし、その半分が50%の運動強度だと考えてください。

しかし、その運動時間をつくるのが難しい、という忙しい方も多いことでしょう。まして週に3回以上といわれると、ハードルが高く感じます。そこでおすすめするのが自転車を通勤や通学、買い物などに取り入れることです。

本書では自転車運動を生活のなかに取り入れることで、気持ちよく健康になる方法を紹介していきます。ただし、やはり運動強度を高めるための乗り方のコツがあります。そのさいのキーワードが「疲れない運動」です。疲労を感じないと運動した意味がないと考えがちですが、それは正しくありません。その理由をこの節で見ていくことにしましょう。

なぜ自転車なのでしょうか。

「疲れを感じにくいのに運動強度が高い」…体質を改善しながら、筋力を鍛えられ最高のアイテムは「自転車」だという事実_1
図1-1
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歩行または自転車走行で1分間運動したときのエネルギー消費量を比較した結果があります(図1-1)。この図を見ると、自転車でゆっくり走ると、歩行と比べて1分間あたりの運動量は減っています。自転車が、とても運動効率のいい乗り物であることがわかります。ところが、スピードを上げると、時速15キロメートル(一般的な自転車の速度)のあたりから、早歩きよりもエネルギー消費量が多くなり、時速18キロメートルでは、大きな差が出ています。

「疲れを感じにくいのに運動強度が高い」…体質を改善しながら、筋力を鍛えられ最高のアイテムは「自転車」だという事実_2
図1-2

図1-2は、標準的な体力を持つ40代の女性が若干のアップダウンのある約3.8キロメートルの道のりを、とくに急ぐことなく歩行と自転車で走行した場合の心拍数の変化を比較したものです。所要時間は歩行で44分間、自転車で16分間です。

歩行では大半の運動強度が50%以下なので、健康づくりにはもう少し高い運動強度がのぞまれます。一方、自転車では大部分の走行時間で運動強度が60%を超えています。このように、自転車では推奨される「50%以上の運動強度」を、それほど無理することなく行うことができるのです。

どちらもとくに急ぐことなく運動を行ったのに、なぜ自転車では心拍数が上昇したのでしょうか。図を見ると、自転車では歩行よりも心拍数の変動幅が大きいことがわかります。これは自転車の場合、発進や坂道で運動強度が大きく増加するためです。

実は、交差点の中央部は水がたまらないように少し高くなっています。そのため、信号などで交差点の手前に停止すると、そのたびに発進・加速を緩い上り坂で行うことになります。日本の街中は信号機が多く、そこでの停止・発進のさいには大きな筋力を使うことになるのです。このように自転車では、運動強度を変動させるインターバル・トレーニングを自然に行うことができ、大きな力を出す筋力トレーニングの要素も含まれるため、心拍数が上昇しやすいのです。

自転車にはもうひとつ大きなメリットがあります。さきほど、「50%以上の運動強度」を目安にと紹介しました。たとえばジョギングでもこの運動強度を超えることができます。しかし、ふだん運動不足の人が、いきなりジョギングを始めると、ひざを痛めるなど、怪我をしてしまうおそれがあります。とくにメタボリック・シンドロームで過体重の人は要注意です。自転車には着地時の衝撃がない点も大きな利点です。

「疲れを感じにくいのに運動強度が高い」…体質を改善しながら、筋力を鍛えられ最高のアイテムは「自転車」だという事実_3

さらに、自転車は、通勤や買い物など、自分の生活のなかに取り入れやすいという利点もあります。米国スポーツ医学会の指標では「週に3〜5回の運動」が推奨されています。ふだんの生活に習慣として取り入れやすい運動としておすすめする理由はここにもあります。