〈群馬・女子留学生死体遺棄〉刑務所から出所後わずか3カ月で死体遺棄で逮捕された男は、過去に朝日新聞の「手抜き除染」スクープに協力後、それを週刊誌に“ヤラセ告発”したメディアお騒がせ男だった!
前橋市のアパートにインドネシア人留学生、ジョシ・プトゥリ・チャハヤニさん(23)の遺体を放置したとして群馬県警が死体遺棄容疑で逮捕した梶村圭一郎容疑者(41)が、過去に新聞協会賞を受賞した朝日新聞の「手抜き除染」記事を「自作自演のやらせ」だと週刊誌に告発していたことがわかった。
「31歳の元除染作業員」として実名で登場
問題の週刊誌記事は9年前、「週刊新潮」の2014年10月16日号(10月8日発売)に「新聞協会賞『手抜き除染キャンペーン』に自作自演の闇がある!」というタイトルで掲載された、5ページの特集だ。この中で梶村容疑者は「31歳の元除染作業員」として実名で登場し、冒頭でこう紹介されている。
「1年以上にわたって150枚超の手紙を本誌に寄せてきた。そこには、<利用するだけ利用して、捨てられた気がします>、<自身の特ダネを得るために、取材者を唆して記事を作ります>などと、使い捨てにされた“情報源”の悲痛な訴えが綴られている」

梶村容疑者(梶村容疑者のSNSより)
これに先立つ1年半前の2013年1月4日、朝日新聞朝刊1面トップに「手抜き除染 横行」の縦見出しが踊り、一連のキャンペーンは始まった。
東日本大震災での福島第一原発事故による放射性物質の除染をしている作業員の中に、集めるはずの葉っぱや土を近くの山や川に捨てたり、洗浄に使った水をタンクに入れずにたれ流している者がいた――被災地住民の怒りに火をつけたこれらの“大スクープ”の根幹を支えたのが、記事に「20代男性」として登場する梶村容疑者の数々の「証言」だった。
福島県楢葉町で除染作業員として働いていた梶村容疑者は、「手抜き除染」や「手当金未払い」などが横行し、現場の士気が低下していたことに悩み、環境省に電話したが解決しなかったので朝日新聞本社に“通報”。その後、担当として派遣されてきたのがA記者だった。梶村容疑者が取材に協力した「手抜き除染」の記事は、後に新聞協会賞を受賞するほどの一大スクープとなった。
だが、後に梶村容疑者は、朝日新聞の一連の記事は「自作自演のやらせ」があったと、今度は「週刊新潮」に告発したのだ。
<(朝日新聞の)記事では、作業員が勇気を持って、録音を自身で決意した等となっていますが、実態はA記者からICレコーダーを手渡され、録音を依頼されました。(中略)同記者は、多少誘導的になっても良いから、現場監督の録音が欲しいと言ってきました>

朝日新聞社
<12月8日から16日までの間、A記者と一緒に、福島県いわき市にある「わ可ば」と「鬼ヶ城」に宿泊して、取材をしていました。(略)この間の「衣・食・住」の費用は全て、朝日が出してくれました>
<四六時中、A記者と一緒に取材をしていて、賃金に不満を抱いている作業員を唆して、取材をしている印象を持ちました。(略)A記者の携帯に『何処其処の現場で捨てています。早く来て下さい』と作業員から連絡があります。賃金やゼネコンに不満を抱いている作業員が、腹癒せ に不法投棄のヤラセをしていました>
(梶村容疑者が「週刊新潮」に送った手紙より。原文ママ)
実は梶村容疑者はこの「告発」を、収監された拘置所から行なっていた。というのも梶村容疑者はいわき市内の同じ寮で生活していた除染作業員に7万円の横領罪で訴えられ、2013年の4月に警察に逮捕されていたのだという。
「週刊新潮」がこれを報道すると、朝日新聞は「記者が元作業員に指示していたかのような内容になっていますが、そうした事実はありません」とし「事実誤認」と反論するとともに、当時の週刊新潮編集長宛で抗議書を送ったという。
複数のメディアにリークするということもやりました
集英社オンラインでは今回、当時、梶村容疑者らとともに除染作業に従事していた男性に取材することができた。この男性は、横領事件については「(梶村さんは)派遣元のゼネコンから同僚に渡すように指示されて渡されたお金を、自分の懐に入れてしまったからと聞きました」とし、梶村容疑者の当時の様子を淡々と語り始めた。
「僕は当時福島県の楢葉町とかいわき市で、放射性物質を含んだ落葉や土砂の撤去をやっていました。梶村さんとは、その除染作業で知り合って2人1組で現場を回ったこともあります。彼は本当に柔和で口調も丁寧で、誰とでも仲良くできるタイプでしたね。ただ、当時から2面性というか、サイコパス的な雰囲気を感じさせるときがありました。
いつもはニコニコしてるのに、突然黙り込んで、不機嫌というか人を寄せつけないオーラを出すことがあったんです。当時の除染作業員には脛に傷持つ人も多かったので、この人も何か訳アリなんだろうなとは思っていました。私が接していたのはわずか2ヵ月程度の期間でしたが、それでもそんなふうに感じましたね」

梶村容疑者(梶村容疑者のSNSより)
それでも男性は梶村容疑者とウマが合い、やがていろんな話をするようになったという。
「詳しい場所は覚えてませんが、福島県内の食堂でメシを食っているときに、『これよかったら使って下さいよ』とブランド物のバッグをもらったことがありました。ブルガリだったかなあ、理由はわからないんですが、突然でしたね。それから名古屋の出身だとか、『親が医者をやっている彼女と付き合っている』とも言っていました。でも彼はわかりやすい『女好き』ではなくて、私が知る限りは風俗にも行ってなかったと思います」
仲良くなると、次第に除染作業員としての労働条件も話題に上るようになった。
「所属していた会社はお互い違ったのですが、2人ともひどいピンハネをされていたんですよ。本来なら日給3万円近くはもらえるところ、5000円とか6000円くらいしかもらえてなかったんです。そういった仲間を5,6人集めて梶村さんが先頭に立って複数のメディアにリークするということもやりましたね。特に朝日新聞のA記者さんが梶村さんと仲がよくて、よく相談していました。私もその方にレコーダーを渡されて、会社の上司の発言を録音したことがあります。見た感じ、梶村さんはAさんを女性として気に入っていたんでしょうが、Aさんのほうは彼を利用していたんでしょうね」
だが、後に男性は「梶村グループ」から撤退した。

処理水問題で再び注目される福島第一原発(共同通信)
「僕は会社からピンハネ分を払ってもらえることになったので、途中でそのリーク活動からは抜けました。梶村さんには『裏切るんですね』と言われたので、それ以降は一切関わることをやめました。そのうちに『朝日新聞』で記事になり、その後、『週刊新潮』でも記事になったことを知りました」
ジョシさんの学校や勤務先でトラブルをおこしていた
その後、日本を離れたこの男性は現在、偶然にも亡くなったジョシさんの母国であるインドネシアに暮らしているという。
「こっちではインドネシアから日本に留学していた若い女性が殺された事件として話題になっているんです。私は現地の知人から梶村さんの写った画像を見せられて『この男を知っているか?』と聞かれたので『え?』と驚きました。当時からサイコパスのような気質は感じていたので、何かやらかすような雰囲気はあったのですが、まさかこんな形で彼をニュースで見るとは思っていなかったです」

インドネシアでも大きく報じられた事件(梶村容疑者のSNSより)
いっぽう、梶村容疑者から手ひどい「しっぺ返し」を食った形の朝日新聞のA記者に話を聞こうと携帯電話に連絡したが、梶村容疑者の名前を告げた途端、「私個人に対する取材でしたら会社の広報を通してほしい」とニベもなく通話を切られた。
だが、しばらくすると、A記者よりこちらの身元確認の電話がかかってきたので、「前橋で起きた事件の取材で梶村容疑者がどんな人物か知りたいだけです」と伝えるとひどく動揺し、パソコンを叩く音とともに「こんなことが……そういうことか…」ボソリと呟く声が聞こえた。彼女は今回の死体遺棄事件を知らなかったようだ。
「週刊新潮」への告発でA記者とは袂を分かった梶村容疑者だが、今年5月に京都刑務所を出所した後も周囲に「俺には味方になってくれる番記者(大手メディアの記者)がついている」などと吹聴し、死亡したジョシさんの学校や勤務先でトラブルをおこしていた。
ある梶村容疑者の知人は「この番記者は今回の逮捕前まで梶村のよき相談相手だったようだ」と証言する。
死亡したジョシさんの遺体は腐敗が進んでおり、司法解剖でも死因は特定できなかった。事件の全容解明が待たれる。

遺体で見つかったジョシ・プトゥリ・チャハヤニさん(梶村容疑者のSNSより)
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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