事件後に猿之助は「前日に家族会議を行い、一緒に死のう、ということになった。両親が薬を飲んで意識がなくなったことを確認し、頭部にビニール袋をかぶせた」と供述していると報じられたが、室内からは、薬はおろか、薬の瓶や包装などの残骸や、ビニール袋も発見されておらず、事態は混迷を極めている。
“事件”発生から6月18日で1ヶ月。猿之助が「大黒柱」として支えていた澤瀉屋一門はどうなっているのか。
舞台関係者が話す。
「6月3日に幕を開けた『六月大歌舞伎』では、約1年前に『ブラ剥ぎ性加害報道』により表舞台を追われた市川中車さん(57)が久々に主役として歌舞伎座へと戻ってきました。
昼の部『傾城反魂香』で主人公である絵師の浮世又平を演じた中車さんは、見事な日本舞踊と唄を披露し、『休みの間に相当な稽古を積んだに違いない』と観客をうならせていました」
〈事件から1ヶ月〉市川猿之助不在の澤瀉屋一門がかかえる“不協和音”。弟子からは「中車さんとは一緒にできない」との声も。猿之助はメンタルケアで入院中
5月18日、歌舞伎俳優の市川猿之助(47)が目黒区の自宅で自殺を図ったとして、同居の両親とともに緊急搬送された。本人は一命をとりとめたものの、父親で歌舞伎俳優の市川段四郎さん(享年76)と母親の喜熨斗延子さん(享年75)は帰らぬ人となった。「歌舞伎界最大の悲劇」のその後は―
いつもの“團子ちゃん”が戻ってきたとファンは安堵

六月大歌舞伎(撮影/集英社オンライン)
舞台では、中車(香川照之)の息子で、事件発生後に東京・明治座での「不死鳥よ波涛を超えて―平家物語異聞-」で見事に猿之助の代役を務めた市川團子(19)も主人公・又平の弟弟子・修理之助の役で登場。
「明治座の代役の時には、猿之助さんが乗り移ったような鬼気迫る演技ぶりで、ちょっと怖いぐらいだったのですが、今回の舞台では、主人公のライバルであり弟弟子である若い絵師を演じており、そのスッキリとした佇まいと若さあふれるみずみずしい演技ぶりで、ようやくいつもの“團子ちゃん”が戻ってきた、とファンを安堵させていました。加えて四代目の代役として起用された中村壱太郎(32)が大活躍。演目としての出来上がりも非常によく、客席からは拍手喝采。連日の満席です」(ベテラン演芸記者)
「雨降って地固まる」といったら不謹慎ではあるが、“最大の危機”を乗り越え、より結束が強まったかのように見える澤瀉屋一門。だが、別の舞台関係者は「そう楽観視はできない状況だ」という。
「事件発生直後はその話題性と、まだ年若い團子くんが、たった2日間の稽古で代役を演じたということで世間の話題をさらい、今月は、一線を退いていた中車さんが久々に主役を演じるということで注目された。また、来月は、猿之助さん不在の舞台で中車さんが猿之助さんの代わりに主役を演じ、人生初という宙乗りまでするというので、すでに話題となっていますが、その後には『目玉』となるトピックがない。ポーカーなどで手持ちのカードをどんどん出してきている状況で、もう切るカードがなくなってきている」

宙乗りに挑戦する中車(共同通信社)
すでに『一枚岩』ではなくなってきている
また、弟子たちの中にも「不協和音」が出始めてきているという。一門に近い関係者が明かす。
「猿之助さんの代役は今後、立役(男性の役)は中村隼人(29)、女形は中村壱太郎ということが決まったといいますが、2人それぞれ、萬屋、成駒屋という“よそのおうち”の役者さんで、ずっと澤瀉屋の公演に付き合わせるわけにはいきません。
また“猿之助”の名前は、團子くんが継ぐというのが“既定路線”とされていますが、それも、四代目の承諾がないと五代目となることはできない。仮に猿之助さんが逮捕されたとしたら、当代が塀の中にいる状態で“襲名”という慶事を行うことは考えにくく、逮捕がなかったとしても、猿之助さんは、事件直前のスポーツ紙のインタビューに『團子の実力はまだまだ』という内容を話しており、早々に“許可”が下りるとは思えません。
お弟子さんたちは、どうなるのか先が見えない中で、ストレスを抱えてしまっており、澤瀉屋を出て、ほかのおうちに弟子入りすることを真剣に検討している役者もいるそうです」
そんななかで、興行主である松竹は「猿之助の舞台復帰」を諦めていないという。

市川猿之助(共同通信社)
「松竹は公式に『猿之助は10月まで舞台を休演する』と発表しており、つまりは、11月以降からの復帰も匂わせているのです。猿之助は、市川團十郎(45)と並んでチケットが売れる役者。ドル箱を手放す気はない、ということでしょう。そうなってくると、“邪魔”となるのが、いとこである中車さんの存在です。
現在、中車さんは、父親である三代目猿之助(現・二代目猿翁・83)のお弟子さんの面倒を給料面も含めて全部見ている。四代目の弟子たちも、そちらに合流すると見られていますが、中車さんがワントップという形で、澤瀉屋を背負っていくとなると、四代目が戻ってきたとき、帰る場所がなくなるのでは?と心配する向きもある。そのため四代目のお弟子さんの中からは『中車さんとは一緒にできない』という声も上がってきている。すでに『一枚岩』ではなくなってきているのです」(前出・一門に近い関係者)
当事者である猿之助は、現在、都内のメンタルケアを専門とする病院に入院中で「精神耗弱の状況にあり、取り調べにもきちんと応じられない状況」(全国紙社会部記者)だという。

猿之助の自宅前・5月18日(撮影/集英社オンライン)
「本人は現状、もう俳優として舞台に復帰しようという意志や気力はないという内容の話をしているのだとか。舞台に戻るとしても、演出かスーパーバイザー的な立場で、ということしか考えにくい」(同前)
定式幕の裏側では、芝居よりも複雑な人間模様が渦巻いている――。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班