「Meta Quest」はMetaがFacebook時代に開発した「Oculus(オキュラス)」シリーズを前身とする、映像とサウンドによる没入体験が楽しめるヘッドセット型デバイスです。
前世代のモデルである「Meta Quest 2」は、基本的には装着すると視界が塞がり、ディスプレイに表示されるデジタル映像の世界に入り込んで楽しむ「VR(=Virtual Reality、仮想現実)」対応ヘッドセットでした。
一方、このたび発売を迎える最新モデル「Meta Quest 3」は、仮想世界の空間に現実世界の情報を重ね合わせたり、それぞれを融合したパススルー映像を表示ができたりする「MR (=Mixed Reality、複合現実)」対応のスマートデバイスです。
ヘッドセット本体には、周囲の状況をキャプチャするため、2台のカメラが搭載されています。ユーザーが両目で見るディスプレイの解像度は、いま主流の大画面テレビに匹敵する「4K」対応の高画質です。電源をオンにすると、フルカラーで表示されるディスプレイに現在いる場所の様子がリアルに表示されます。

現実と仮想世界が融合するMetaの最新ヘッドセット「Meta Quest 3」先行体験レポート。話題の「Apple Vision Pro」との決定的な違いは…
米Meta(メタ)社が、バーチャル空間の中で迫力の立体ゲームやソーシャル体験が楽しめる最新VR/MRヘッドセット「Meta Quest 3」を10月10日に発売する。リリース前に同製品を先行体験する機会を得たので、Appleの空間コンピュータ「Apple Vision Pro」も試した筆者が、その決定的な「違い」と実用性を解説する。
最新MRゲームがサクサク楽しめる!
現実世界の映像をバーチャルに取り込む「MR」体験

2023年10月10日に発売を迎える「Meta Quest 3」

本体のカメラで現実世界の映像を取り込みながら、仮想現実のオブジェクトを表示する
MR対応のヘッドセットを快適に楽しむためには、ディスプレイに表示される映像がキレイに映るだけでは十分ではありません。
ヘッドセットを装着したまま部屋の中を自由に動き回るためには、映像に表示される現実世界の部屋のサイズ、あるいは置かれている家具などの大きさやユーザーとの距離が映像にも正しく反映される必要があります。
そこでMeta Quest 3では、本体に「深度プロジェクター」というセンサーを設けて、現実世界にある物体の位置を正確に把握。MR空間内でも安全に、かつ自由に移動できる使い勝手を確保しました。
VRとMRのコンテンツも充実
内蔵メモリに関しては、128GBモデル(7万4800円)と256GBモデル(9万6800円)の2種類を用意。バッテリー持続時間は使用条件によっても変わりますが、たとえばゲームを楽しむ場合は、平均2時間半程度が目安とされています。
本体を装着して、右側面のバンド部分を指でダブルタップすると「VR」と「MR」で表示モードが切り替わります。従来のVRコンテンツはもちろん、今後新たに制作されるMRコンテンツまでも1台で楽しめるのです。

ヘッドセットはフロント側にカメラやセンサーを搭載する

右側面のバンドをタップするとVR/MRモードを切替えられる

頭頂部のバンドで、装着状態の微調整が可能
ゲームやアプリなどは、Meta Questストアから本体の内蔵ストレージにダウンロードして扱います。
肝心のゲームやアプリのラインナップに関しては、新製品の発売に合わせて、2023年の年末までに新作と、MR対応に最適化したゲームタイトルが合計100作品を目処に揃う予定です。
旧モデル「Meta Quest 2」向けの500以上のゲームやアプリとも互換性があるため、Meta Quest 3は発売直後から遊べるコンテンツが充実しそうです。
最新チップ内蔵で、高いグラフィックスの再現力
今回、筆者はMetaが開催したMeta Quest 3の体験会に参加して、その実力に触れることができました。

Meta Quest 3の実機を先行体験した
はじめに、MR対応ゲーム「First Encounters」を体験しました。デバイスを装着すると、部屋の中に次々と宇宙人が侵略してくるので、それを光線銃で撃ちながら倒すアクションゲームです。

MR対応のゲーム「First Encounters」
Meta Quest 3には、専用の「Touch Plusコントローラー」が付属します。人間工学に基づいてデザインされたという軽量なコントローラーは、内蔵する高精度な赤外線センサーにより、ユーザーの両手の動きを正確にトラッキングしながらMR空間の中に再現します。
ボタン操作に対する反応も鋭く、ゲームの画面に遅延なく反映されます。コントローラーには触感フィードバックも搭載しているので、MRの世界に配置されているオブジェクトに触ると振動により感触が再現されます。

触感フィードバックを内蔵する専用の「Touch Plusコントローラー」
Meta Quest 3には、米Qualcomm(クアルコム)社の「Snapdragon(スナップドラゴン)」ブランドの最新システムICチップ「Snapdragon XR2 Gen 2」が搭載されており、これが快適な操作感に一役買っています。
この最新鋭のチップが搭載されたことで、4K対応のディスプレイに高精細な映像を描きつつ、コントローラーの操作信号に遅れることなく小気味よいレスポンスを返す、といった芸当を実現しているのです。

マルチユーザーによる対戦型ゲームの「BAM!」
また、この日の体験会に参加した4名の記者と一緒に、マルチプレーヤー方式の対戦型MRゲーム「BAM!」を遊びました。
1つの「王冠」を制限時間内に奪って守り切る、というシンプルな“陣取り合戦”系のゲームですが、コントローラーによる操作に対して遅延なくスムーズに動いてくれるからこそ、グラフィックスにも凝ったゲームの醍醐味が存分に味わえます。
ボディは旧モデルよりスリムに。軽快な装着感を実現
「装着感」についても忘れずに触れておきましょう。
ヘッドセットの質量は515gです。Appleのワイヤレスヘッドホン「AirPods Max」が384.8gなので、高級なオーディオヘッドホンよりもやや重めな手応えをイメージしてください。
一般的なVRヘッドセットは装着すると本体の重みにより、前方に重心が偏りがちになります。
その点、Meta Quest 3では本体に搭載するレンズなど光学系を、前機種よりも約40%薄く設計したことで、デザインがスリムになり、重さが“前のめり”になることが少なくなりました。頭の周りと頭頂部分をソフトストラップで固定すると、ヘッドセットの装着バランスが安定します。
また、本機は左右の瞳の距離(瞳孔間距離)の調整、目とレンズとの距離調整にも対応。裸眼である程度の視力が得られる方は、それぞれの調整だけで快適なフィット感とクリアな視界が得られるでしょう。

Meta Quest 3を装着した筆者。バンドでフィットを調整すると安定した装着感が得られる
筆者のようなメガネユーザーの場合は、接顔部の空間は広く取られているため、「先にメガネを挿入してから、Meta Questを身に着ける」作戦が有効になる場合もあります。
ただ、筆者は顔が大きいので、ふだん使っているメガネが入りませんでした。場合によっては、やはりコンタクトレンズの使用がベターかもしれません。
ちなみに、オプティカルアクセサリーブランド「Zenni(ゼニ)」から、Meta Quest 3に最適化した視力補正対応レンズも商品化されるそうです。次回、Meta Quest 3をゆっくりと試せる機会には、その補正レンズを手に入れて試したいと思います。
「Apple Vision Pro」とは何が違う?
筆者は、今年6月にAppleが開催した世界開発者会議「WWDC 23」を現地取材して、話題の「Apple Vision Pro」を先行体験してきました。
Apple Vision Pro も、Meta Quest 3同様に単体で動作するスタンドアロン型のMR対応ヘッドセットです。果たして、両製品の「違い」はどこにあるのでしょうか。

Appleの空間コンピュータ「Apple Vision Pro」
まず、Apple Vision Proの画質は片目で4K相当の高解像度に到達しているため、パススルー映像のきめ細かさやリアリティはApple Vision Proが勝っています。
ただし、6倍以上の価格差になることを考えれば、Meta Quest 3の画質も十分に健闘していると筆者は感じました。むしろ10万円以下のMeta Quest 3で高画質なMRの世界を体験しておけば、「もっと高画質」なApple Vision Proが自分に必要なデバイスなのか、冷静な判断ができると思います。
両デバイスを体験して思ったのが、Meta Quest 3とApple Vision Proは「似て非なるデバイス」だということです。
頭に装着するスタイルは共通していますが、Meta Quest 3がMR/VRのゲームを中心とするエンターテインメント用途に軸足を置くデバイスであるのに対して、Apple Vision Proはまさしく「空間コンピュータ」。
MR空間をワークスペースとしながら、Macと同じ感覚でクリエイティブワークやビデオ会議に勤しんだり、Apple Vision Proで撮影した立体表示に対応する「空間ビデオ」を視たりといった、他には類を見ない革新的な使い方が想定されます。

最大の違いは、Apple Vision ProはまるでMacやiPadで仕事をするような感覚でオフィスユースができる点だ
Metaもまた、パススルー表示に対応するMeta Quest 3の特徴を活かして、今後はエンターテインメントに限らず、ビジネスユースにも広がる使い道を模索しているようです。
新製品体験会に出席するため、米国から来日したMetaのMeta Quest 3 プロダクト・マーケティング・マネージャーのパルワシャ・カトリ氏は、今後の展望について「MRテクノロジーには、私たちの働き方を変える可能性がある。最新モデルに寄せられる声を聞きながら、ビジネスパーソンの役に立つ使い方を開拓・提案していきます」とコメントしました。

Meta Quest 3 プロダクト・マーケティング・マネージャーであるパルワシャ・カトリ氏
10万円以下で買える、高画質・高機能なMRヘッドセットが躍進を見せるのか。発売後の動向は要注目です。
文・写真/山本敦
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