大切な歯を失ってしまうかもしれない“ブラキシズム”とは? 「原因不明の偏頭痛」「犬歯の尖りがなくなった」「歯の付け根にくぼみ」の兆候には要注意
知らず知らずのうちにやってしまう歯ぎしり、噛みしめは歯を壊す〝悪習癖〞だった。もはや単なる「噛みグセ」ではなく、「咬合病」といってもいいほど怖い「ブラキシズム」とは何なのか。そしてそれがもたらす歯や口内の影響とは…『ブラキシズムが歯を壊す! 隠れた「歯の天敵」を知っていますか?』(現代書林)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『ブラキシズムが歯を壊す!』#1
病気ではないけれど、困った習癖
「ブラキシズム」と聞いても、多くの方はピンとこないでしょう。でも、「歯ぎしり」「噛みしめ」といえば、「な〜んだ、そうか」と、わかりますね。
自分もやっているかもしれないと、思い当たる人がいるかもしれません。
ブラキシズムという考え方は20世紀初頭に紹介されました。そして、20世紀後半になり、新たにストレスとの因果関係という考え方が海外から入ってきたもので、もう30年以上も前からあります。しかし世間ではまだまだ認識されていないのが現状のようです。
ブラキシズムをもう少し詳しく説明すると、歯をギシギシとこすり合わせる「グラインディング」、歯を強く噛みしめたり、食いしばる「クレンチング」、上下の歯を小刻みに動かしてカチカチと当てる「タッピング」があり、これらの動作形態、習癖を総称して、「ブラキシズム」といいます。

しかしなぜ、歯ぎしり、噛みしめ(食いしばり)、タッピングをひとまとめにするのかは、不明です。
おそらく、噛み合わせに関する都合の悪い習癖を全部まとめて、「ブラキシズム」と考えたのでしょう。また、これらの習癖が夜間に多いことから、「睡眠障害」の一つという捉え方もあるようです。
日本には「無くて七癖」という言葉があるように、癖がないように見える人にも、いろいろな癖があります。代表的なのが、「貧乏ゆすり」ではないでしょうか。この癖は無意識に行っていることが多いため、他人から注意を受けてもなかなか直せません。
「舌打ち」が癖になっている人もいます。これも、「人に悪い印象を与えるから」と身内の方に注意されていても、直らない癖の一つです。
意識して直しても、しばらくすると、知らず知らずのうちにまたやってしまい、まわりに不愉快な思いをさせてしまったという経験をお持ちの方もいるでしょう。
ブラキシズム自体も癖で、病気ではないというのが一般的な見解です。
しかしこの習癖は、長い人生の間でお口の中にいろいろな問題を起こす、大変困った〝悪習癖〞なのです。そのことは、近年の医学、歯科医学の研究結果からも明らかになっています。
こんな兆候は、ブラキサーのサイン?
歯ぎしりや噛みしめは誰にでもある習癖ですから、とくに問題がなければ、放置しておいてもかまわないと思いますか。
私も歯ぎしりがありますが、あまり歯もすり減っていませんし、いまのところ困るようなこと(知覚過敏や噛んで痛い歯の問題)は起きていません。しかし、多くは無自覚にしていることですから、知らないうちにお口に悪影響を及ぼしていることがあります。
たとえば、みなさんの中には、次のような兆候はないでしょうか。
・歯ぐきが退縮して、歯が伸びてきた。歯の根が見えてきた。
・歯の付け根(歯肉との境目)がくぼんだり、えぐれてきた。付け根に段差ができてきた。
・冷たいものをとると歯や歯ぐきがしみる。何本もの奥歯がしみる。
・詰めものやかぶせてあった銀歯などが外れたり、取れたりする。

こうした変化は、ブラキシズムの力のせいかもしれません。
また、歯科医師であれば、患者さんのお口を見ただけで、ブラキシズムがあるかないかわかります。
ブラキシズムのある人(ブラキサー)には、共通の歯の形があるからです。これはみなさんでもわかりますから、一度鏡でご自分のお口の中を見てください。
まず、正面の歯から三番目にある犬歯(糸切り歯)の先は、どうなっているでしょうか。犬歯は、糸切り歯というように歯の先が尖っています。ところが、それが尖っていないで、ナイフで切り取ったように平らになっていませんか。
もう一つは、前歯や奥歯の歯の頭が削れて、中の象牙質(少し黄色味がかった部分)が見えていませんか。
こうした歯の減り方や削れ方は、決して食事ですり減ったものでも、長く使っていたからでもありません。
歯の表面は、エナメル質という硬い層で覆われています。この硬さは、自然界ではダイヤモンドに次ぐといわれるくらい硬いもので、食事や、長く使っていたくらいで減るようなものではないのです。
なぜそんなに硬いエナメル質がすり減るのかというと、エナメル質同士が強い力でこすり合わされて、少しずつ表面からなくなっていくからです。硬いダイヤモンドを、ダイヤモンドの粉で研磨するのと同じ理屈です。
その結果、エナメル質で覆われていた中の象牙質が出てきたり、犬歯の先が平らになったりして、冷たいものがしみたり、痛みが出てくるのです。
ブラキシズムは歯周病を進行させ、食事もできなくなってしまう…
お口には、歯ぎしりをしたり、噛みしめたりするたびに大きな力がかかっています。その力は、通常の咬合力の3〜5倍あると、これまではいわれていましたが、近年では6〜7倍もあるという報告もあります。この強い力によって、歯は押しつぶされ、こすられ、曲げられていきます。その結果、虫歯でもないきれいな歯が、割れたり欠けたりしてきます。
またその力は、歯を支えている歯ぐき(歯肉やあごの骨)にも影響を及ぼします。歯の根のまわりの組織がブラキシズムの力で押しつけられると、血流が悪くなり、免疫細胞などが十分供給されなくなって、歯周病が進行していきます。
さらに歯そのものが動いて、噛み合わせが変わってきたり、噛むと痛みが出たりして、食事がしにくくなってきます。
このように、誰にでもある小さな癖が、長い間に、お口や歯の機能に重大な影響を及ぼすことがあるのです。
実際にお口の中を時間と共に経過観察すると、確実に、ブラキシズムの影響と思われる変化が現れてきます。

歯への影響
歯ぎしりがあると、まず、歯がすり減って削れてきたり(咬耗)、歯の頭が欠けてきたり、治療したあとの詰めものやかぶせもの、充填物が外れたり、歯の一部と共に欠けて一緒に取れてきます。
最悪の場合、かぶせものや差し歯(歯根に支柱を立てて人工歯をかぶせる治療)ごと、歯根が割れることもあります。
過去には、虫歯でもなく、歯科治療を受けた痕跡もない歯が、突然歯冠から歯根まで竹を割ったように縦に二つに割れてきた患者さんもいました。こういうときは、たいていの場合、歯は抜かれる運命にあります。
また、「クサビ(楔)状欠損」といって、歯の付け根がえぐれることもあります。これについては間違いなく、ブラキシズム、つまり歯にかかる「力」の問題だということが、科学的に証明されています。クサビ状欠損は特定の歯だけに現れる人もいれば、犬歯から奥歯まで、程度の差はあるものの、全部の歯に現れる人もいます。
また、歯の表面がなくなっていったり、奥歯などの歯の咬合面がすり減って、象牙質が露出してきます。象牙質はエナメル質よりも柔らかいので、削られてくぼみが進行していくこともあります。

歯が割れた患者さんの例。『ブラキシズムが歯を壊す! 隠れた「歯の天敵」を知っていますか?』より
噛みしめや食いしばりは、目で見てわかるような変化はあまりなく、普通はなかなか歯を見ても影響は現れません(特殊な光を当てて見ることで表面のヒビ割れなどを顕微鏡などで観察することはできます)。しかし、強い力が何万回、何十万回かかると、歯が破折します。
当院の男性の患者さんで、虫歯が一本もないのに、なんと、歯が真っ二つに縦に割れてしまった方がいました。真っ二つに割れなくても、ヒビが入ってしみたり、ヒビが根っこまでつながって、やがて歯を失う人もいます。
このようにブラキシズムがあると、虫歯でも歯周病でもないのに、歯を失うことになるのです。
歯ぐきへの影響
歯肉が退縮してくると歯が伸びてきたように見えたり、歯の根のまわりの骨の吸収が進んで、歯の根っこが見えてきます。
また、歯ぐきの血流が悪くなって、歯ぐきの中で骨や歯肉の炎症を抑えることができなくなり、歯ぐきの炎症が悪化します。こうしたことが、歯周病を進行させます。

原因不明のお口の症状
虫歯もなく、クサビ状欠損もないのに、知覚過敏を起こす人がいます。これは、食いしばりや噛みしめがあって常に強い力が歯の中の神経に加わり、神経が興奮して、知覚過敏を起こすからだといわれています。
また、この場合、原因不明の歯の痛みや咬合痛(虫歯でないのに噛むと痛い)で、何軒も歯科医院をハシゴしているという患者さんを、これまで数多く診てきました。長年患っていた原因不明の偏頭痛が、食いしばりや噛みしめが原因だったという患者さんもいます。
こうしたことの他に、修復物や補綴物の破壊(破折)、セラミックでできた歯の欠けやヒビ割れなど、治療した歯や補填物も壊されます。
また、虫歯や歯周病、顎関節症の発症や増悪にも関わっているといわれています。
文/池上正資 写真/shutterstock
『ブラキシズムが歯を壊す! 隠れた「歯の天敵」を知っていますか?』
池上 正資

2023/5/10
¥1,540
200ページ
978-4774519777
「同じ歯の銀歯が何度も取れる」「同じ歯ばかりが痛む、虫歯になる、しみる」・・・
皆さん、歯の治療でこういう経験はないでしょうか?
普通、虫歯などは一度治療が終われば、短期間で同じ歯が悪くなる事は滅多にありません。
ただ、そういう訴えをしてくる患者さんが多くいらっしゃることも事実なのです。
それはナゼか?
歯科医になって40年、開業して35年を超える治療実績を持つ著者はそれをずっと考えてきましたが、あの時気付いたのです。
「ブラキシズム」が原因だと。
(「ブラキシズム」とは、「歯ぎしり」「噛みしめ」「食いしばり」などの噛み癖の総称)
「ブラキシズム」という考え方自体は20世紀初頭には知られていました。
当時はあくまで「クセ」であり、病気ではないという考え方です。
ただ、近年の歯科医学の研究の結果、単なる「クセ」では片づけられず、口の中に多くの問題を引き起こす原因になってきているという事が分かってきています。
ところが、患者さんだけではなく、歯科医師の中でもまだ広く知られていないのも現状なのです。
著者は現場での治療を行うにつれ、一般の人に広まっている症状だということに危機感を持っています。
そもそも「ブラキシズム」の多くは無意識、あるいは就寝中に行っているので、本人は気付いていない事が厄介な点です。
端的に言えば「ブラキシズムが歯を壊す」のです。
著者は「ブラキシズムをどうするか」という問題、そして解決法・治療法を読者の皆さんと共有したいと思い本書を書きました。
【目次】
はじめに
第1章 あなたのお口の悩み、「ブラキシズム」が本当の原因かもしれません
第2章 虫歯や歯周病とブラキシズムの深い関係
第3章 歯科の治療法とブラキシズム ―ブラキシズムで咬合が崩壊する!?
第4章 ブラキシズムの治療 ―治せなくても軽くすることはできます
第5章 大事なお口を守るための予防歯科医療
第6章 歯科医院との上手な付き合い方
おわりに
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