クルミが追加された「特定原材料」とは、アレルギー発症数が多く、重篤な症状に到ることが多いものとして、加工食品への表示が義務化されている食材のこと。他にエビ、カニ、小麦、そば、卵、乳、落花生がある。
今回クルミの表示義務化に至った背景として、アレルギーの原因食材第3位にクルミを含む木の実類がランクインしたことが挙げられる(消費者庁発表「令和3年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」より)。
長年、アレルギーの原因食材トップ3は鶏卵、牛乳、小麦だったが、木の実類が小麦を抜いたのだ。
子供の食べ物の好き嫌いが実はアレルギーだった!? うがい・吐かせることはNG、アレルギー反応が出たら“脳”を守れ! 自宅でできるアレルギーの正しい対処法
アレルギーを引き起こすおそれのある食品として、2025年度4月より「クルミ」が特定原材料として表示義務化される。昨今クルミを含む木の実類のアレルギーが急増している理由とは? また、食物アレルギーが出た場合の対処法は? 『大人の食物アレルギー』著者であり、アレルギー研究・治療の第一人者の医師・福冨友馬氏に聞いた。
クルミの食物アレルギーが、9年間で10倍増!

その理由の一つとして、「日本人の食生活の変化や健康志向から、木の実類の消費量が増えていることが考えられる」(福冨氏、以下同)という。
「そもそも食物アレルギーとは、本来無害なはずの食べ物に対して体内の免疫が過敏に反応することで、体に有害な症状が起きている状態のことです。食べるだけでなく、皮膚や粘膜から食べ物の成分が体内に入り発症することもあります。
発症には遺伝的要因もあることがわかっていますが、その影響は小さく、基本的に発症のメカニズムは環境的な要因のほうが強いですね。日常的に食べているうちにだんだんアレルギーになる場合もあります。
例えばクルミの日本での消費量は、1985年の約7000トンから2020年の約5万6000トンへと、35年間で8倍に増加しています。クルミのアレルギーは子どもが発症することがほとんどですが、消費量に比例するかのように、クルミの食物アレルギーの発症件数は9年間で10倍以上にも増加しているのです」
アレルギー反応が出たら、大人も子どもも動かないこと
身近な食物にこそ危険が潜むアレルギー。実際に食物アレルギー反応にはどんなものがあるのだろうか?
「アナフィラキシーにおけるアレルギー反応は『軽症』『中等症』『重症』の3つの段階に分けられます。軽症は部分的な蕁麻疹やかゆみ、喉の違和感、弱い腹痛、吐き気、下痢、くしゃみなどの症状です。蕁麻疹やかゆみが全身に現れ、喉の痛み、強い腹痛、嘔吐、軽い息苦しさや血圧低下が中等症の症状です。重症になるとさらに便失禁や強い咳込み、呼吸困難、不整脈、意識消失といった症状が現れます」
もしもこれらのアレルギー反応が自宅で出た場合の対処法は?
「運動によって、食物アレルギーの反応が悪化することが多いので、症状が出始めた際は動かないことが基本です。軽症の場合は症状が重くならないよう注意しながら安静に。中等症以上の場合も、まずは座るか横になる体制をとり、脳の血流を維持しましょう。血圧が低下し意識を失うことによる転倒を防止するためです」

では応急処置的に、うがいをして原因食物を外に出す行為は?
「口や喉の症状がメインの場合は試してみてもよいかもしれませんが、必ずそうしなければいけない必要はないと思います。また無理矢理食べた物を吐かせようとすることもありますが、喉に食物が詰まるなどの危険性があるため私はやめたほうが良いと思います。
このように自分で対処しようと焦って、何かしようと動き回る行為が、結果的にアナフィラキシーを誘発することもあります。アレルギー反応が出たら安静第一で周りに助けを求め、必要に応じて救急車を呼んでください。これらの対処法は、大人でも子どもでも同じです」

無理やり吐かせるのはNG
大人の食物アレルギーも治る
ここで気になるのが、食物アレルギーは治るのかということ。一度発症したら原因食物を一生食べられなくなってしまうのだろうか。
「子どもの時に発症した食物アレルギーは大人になるにつれ、よくなることが多いです。一方、大人の食物アレルギーはこれまで基本的には治らないとされていました。しかし、最近では改善されたという報告も増えてきてはいます。
特に、皮膚や粘膜からの侵入が原因で食物アレルギーを発症した場合、原因となった食物を含む製品の使用を中断すれば、数年かけて食物アレルギーがよくなることがあります。例えば化粧品の使用で成分内の小麦アレルギーが発症した場合、原因になった化粧品の使用をやめることで治るというようなケースです。
逆に一部の専門病院で子どもに対して行われている、原因となる食物を症状が起こらない程度に少しずつ食べる『経口免疫療法』は、大人には効くかどうかわかっていません」

子どもの好き嫌い。食物アレルギーが潜んでいるかも?
最後に、気をつけたい見落としがちなアレルギー反応も教えてもらった。
「子どもの頃から味が嫌いであまり食べたことがない食物が、大人になって検査をすると実はアレルギーだったというパターンは多いです。アレルギー反応と味の嫌悪感との関係はわかっていませんが、アレルギーによる喉の不快感などを『嫌い』と感じていた可能性もあります」
幼少期からの不快感が実はアレルギーだった例として、特に多いのが果物類だという。
「『果物は食べると喉がかゆくなるもの』だと思い込んでしまっており、アレルギーだと認識していなかったケースもあります。以上のことから、子どもが嫌いな食べ物を無理矢理食べさせることには、アレルギーの観点からは一定のリスクがあるのです」
さらに、皮膚や粘膜からの侵入が原因のアレルギー反応でも、見落としがちなものが。
「皮膚の症状と食べて発症する症状は一致するとは限りませんが、エビやカニなどの甲殻類を調理で触ると手がかゆいと感じる方が、実はそれらのアレルギーだったということも。また、食物ではありませんが、毎年春に喉風邪をひいて咳が続く方が、花粉アレルギーだったというパターンはよくあります。花粉は目や鼻だけでなく、喉に症状が現れることもあるのです」
いつ発症するかわからない食物アレルギー。対策を正しく知っておくことは大切だ。
取材・文/菱山恵巳子
関連記事
新着記事
【漫画】「残業200時間超えてからが本番」「〇〇さん一週間帰ってない」「××さんなんて会社に住んでる」…自分だけできないのはがんばっていないから?(2)
「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(2)


