
日本的2Dアニメを救うのは3Dか? 原作者の鳥山明も絶賛。「日本アニメ」新時代を予見させた『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』制作経緯
近年、アニメーション制作は技術の進歩が進み、2Dと見分けのつかない3D表現が急増中だ。2022年公開の映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は、そんなアニメにおける“2D的3D表現”利用の最先端を見せた作品であり、世界中で喝采を浴び、最高傑作との呼び声も多数寄せられている。「日本的2Dアニメ」新時代を予見させた本作の制作経緯、そして原作者・鳥山明はそれをどう評価したのか。
GOが出るまでに4本のパイロット版を要した、3Dの全面採用

『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』のプロデューサーを務めた、東映アニメーションの林田師博さん。『ドラゴンボール』劇場版においては、2015年『ドラゴンボールZ 復活の「F」』以降の作品を手掛けている
――『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』で3D表現を全面的に取り入れるまでにどのような道のりがあったのでしょうか?
3D表現採用には東映アニメーション社内でも反対が多かったのですが、上層部に「やってごらん」と言ってくれる人たちが何人かいたことから、2014年の6月にパイロット版の制作が始まりました。
それから集英社のドラゴンボール室や鳥山先生に初めてお見せすることができたのが2016年頃です。計4本のパイロットフィルムを作って都度確認していただき、GOサインをいただけました。
『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』のパイロット版制作は、前作『ドラゴンボール超 ブロリー』(2018年公開)と同時並行で行われていた
――最終的にはどんなパイロット版が鳥山先生からOKをもらえたのでしょうか?
今作『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』で監督を務めた児玉徹郎さんが手がけたパイロット版です。「これをベースに開発してくれたら良い作品ができるかもしれませんね」といった内容の回答をいただけました。

――それまでのパイロット版と比べ、どういった点が鳥山先生に評価されたのですか?
「キャラクターの動き」です。手描きアニメーションの良い部分と、新しい表現ならではのリアリティあふれるアクションがうまく融合されていて、そこを先生にご評価いただきました。児玉さんは業界の中でも数少ない、3Dセルルックのアニメをずっと研究してこられた方なので、その経験が存分に発揮されたんだと思いますね。
児玉監督による短編アニメーション作品『PIANOMAN』。文化庁メディア芸術祭 第24回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品。児玉監督は前作『ドラゴンボール超 ブロリー』でもCGシーケンスディレクターとして参加している
「ビジュアルの均一性を保つ」という要望に応えるには、3Dセルルックが最適

――鳥山先生は『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』推薦コメントで大絶賛されていましたよね。
そうなんですよ! 集英社さんから先生の絶賛コメントをいただいたとき、A4サイズの紙にぎっしりと書いてあってものすごく驚きました。格別に嬉しかったですね。
――僕個人としても、今作は『ドラゴンボール』劇場版の最高傑作だと思いました。しかし、そうした観客目線とは別に、原作者であり脚本も手がけられた鳥山先生は、具体的に本作のどこを気に入られたんだと思いますか?
絵柄の統一感が大きいのではないかと思います。と言うのも、鳥山先生と集英社さんは昔からずっと「シーンごとによる作画のバラツキ感をなくしてほしい」とおっしゃっていたんですよ。要は絵柄の均一感を求められていたということですね。

――なるほど。マンガの場合、基本的には漫画家さんの絵柄で作品全体が統一されますもんね。マンガを主戦場とされているクリエイターからすると、シーンごとに絵柄が変わるのは大きな違和感がありそうです。
アニメ制作者側には「『神作画』展覧会ができれば、シーンごとに多少絵柄が違っていてもいい」っていう気持ちがあるのは事実です。しかし、作画のバラつき感をなくすには、3Dを導入したセルルックアニメというのは、ものすごく相性のいいスタイルだったんです。
――その一方で、アニメファンが「このシーンは○○さんの原画かな?」なんて担当スタッフを推測して楽しむような「神作画」は生まれにくい面もあるということですよね。
そうですね。とくに「止め画」で違いが出てきますね。スーパーアニメーターと呼ばれているような天才の方々による画と比べてしまうと、一枚絵として勝てません。均一な絵柄で動かせるという点では、3Dセルルックの方がアドバンテージは断然強いんですけどね。そこは今後の課題になると思います。
長きにわたる手描きアニメのノウハウが凝縮した、新しい表現

――東映アニメーションは日本のアニメスタジオの元祖とも言える会社ですし、今も手描きアニメをたくさん制作されています。『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』では、そうした手描きアニメの伝統的な技術も活用されているのでしょうか?
うちには『ドラゴンボール』を何十年も描き続けているような方々がいるので、彼らの存在は非常に大きかったです。どれだけ絵が上手い人にお願いしたとしても、すぐには『ドラゴンボール』は描けないですからね。鳥山先生ならではのタッチの再現はもちろんですが、アクションにも独特なところがたくさんありますから。
――彼らはどのような役職として参加しているのでしょうか?
作画監督です。彼らにキャラクターの正面から見た姿と横と後ろの3面図を描いてもらい、集英社さんに全キャラOKをもらってからモデリングに入るというのが、今回の制作フローでした。
通常は一枚絵を見てそのままモデリングして、そこから詰めていくという作業になると思うのですが、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』ではまず「鳥山先生の絵」を立体化させるための共通認識を作るため、手描きの3面図を作成するという工程を入れました。『ドラゴンボール』のノウハウを持つベテランたちの存在は、その作業において非常に強みとなりました。
他にも、作画監督の皆さんには、各シーンやカットごとに細かくビジュアルに対して修正指示を出し、より『ドラゴンボール』らしい絵になるようにディレクションしてもらいました。
――キャラクターにアニメーションをつけてカメラワークを決めた上で、そこからセルルックの『ドラゴンボール』として違和感がないように絵を微調整しているわけですね。
そうです。髪型や輪郭などを含め1コマごとに作画監督が修正を入れて、アニメーターがそれに合わせて調整を入れていきました。

――本作は新しい技術と長年培われた手描き作画が融合して、まったく新しい『ドラゴンボール』の魅力を表現した作品だということがよくわりました。その一方で、本作に至るまでの『ドラゴンボール』のあらすじをハイクオリティーの手描きで表現したアバンタイトル(プロローグ)には、2Dアニメの意地というか迫力を見せつけられた思いがしました。
あれは僕が本作に絶対に参加して欲しかったスタッフの一人である作画監督・久保田誓さんによるパートです。
久保田さんの「手描きの一連シーンを描きたい」という要望に応えて担当してもらった部分ですね。
たった2分の映像なんですけど、アバン後が完成してもプロローグだけがいつまで経っても上がらないっていう状況でした(笑)。でも、それだけの絵になっていると思いますね。
――正直、これまでの『ドラゴンボール』関連映像の中でも一番すごい映像だと思いました。
手描きのレベルではズバ抜けてますよね。あれは本当にすごいですよ。まさに神作画です。
インタビュー後半では、アニメへの3D導入の現在や可能性についてうかがった。
『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は日本アニメの歴史を変えたのか。「ピクサー的“ポリゴンルックアニメ”には限界が見え始めている」と言われるワケ
取材・文・撮影/照沼健太
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