井上真央さんにきく、普通の親子の枠組みから外れる子の葛藤。

「母が苦手」という、誰にも言えない悩みを抱える娘の物語【『わたしのお母さん』主演、井上真央さんインタビュー 】_1
弟夫婦とのトラブルを経て、母、寛子(石田えり)を一時的に引き受けることになった夕子(井上真央)の物語。
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検索ワードに「母」といれると、「しんどい」「重い」「嫌い」という言葉がつらつらと出てくるようになったのはいつからでしょう。それまでは明確な形として表に出てきてなかっただけで、世の中には肉親との関係性に悩んでいる人が結構な数、いるのだなとデジタル時代になって目に見えてわかるようになってきました。

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旅行中でも夕子は母にぎこちない表情を見せてしまう。

井上真央さんの主演映画『わたしのお母さん』は、何が原因というわけでもなく、母親のことが苦手な夕子という女性が主人公です。井上さんといえば、代表作である『八日目の蝉』で、幼少期に父親の愛人に誘拐され、愛情深く育てられた過去ゆえ、生みの母親との間に深い溝が生じた女性を演じたことがありますが、『わたしのお母さん』での石田えりさん演じる母親はいわゆる毒親ではありません。

夫亡き後、明るく頑張って、3人の子供を育ててきた肝っ玉母さんで、外から見ると何ら問題なく見える。なのになぜ、一緒にいると息苦しいのか。脚本も手掛けた杉田真一監督は、井上さんに「彼女の痛みをほんの少しでも和らげることはできないだろうか」としたためた出演依頼の手紙を送ってきたそうで、夕子とともに、観客もじっくり、親との関係性を探る構成になっています。

井上真央さんに夕子の感情とどう寄り添ったのかをお聞きしました。

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井上真央 (Mao Inoue)
1987年生まれ、神奈川県出身。角田光代の小説を映画化した『八日目の蝉』(11/成島出監督)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、山路ふみ子映画賞新人女優賞をはじめ数々の賞を受賞。代表作に『白ゆき姫殺人事件』(14/中村義洋監督)、『焼肉ドラゴン』(18/鄭義信監督)、『カツベン!』(19/周防正行監督)、『一度も撃ってません』(20/阪本順治監督)、『大コメ騒動』(21/本木克英監督)など多数。テレビドラマでは「花より男子」シリーズ(TBS)、連続テレビ小説「おひさま」(11/NHK)、大河ドラマ「花燃ゆ」(15/NHK)、「明日の約束」(17/KTV)、「乱反射」(18/NBN)、「少年寅次郎」(19/NHK)、「夜のあぐら〜姉と弟と私~」(22/BS松竹東急)に主演。

夕子が母に抱く違和感を演じることで、私だけじゃないと思ってもらえる作品となるかも

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──杉田真一監督は『わたしのお母さん』が二作目で、まだ新人監督と言っていいと思うのですが、出演を決められた理由を教えてください。

「杉田監督からのお手紙と脚本を読んで、1人の女性が抱えている罪悪感というところに引っかかりました。夕子が母に抱いている違和感や葛藤と向き合うことで『私だけじゃないんだ』と思ってもらえる作品になればとの思いで引き受けました。親子関係に限らず普通とされることにうまく自分自身を合わせることができない人たちにも届いたらいいなと思いました」

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夕子は妹の晶子(阿部純子)と弟の勝(笠松将)の3人兄弟の長女。

──夕子は3人姉弟の長女で、次女役を阿部純子さん、末っ子の弟役は笠松将さん。石田えりさん演じる母は笠松さんの弟夫婦と同居していたところ、とあるトラブルから突然、夕子の家に居候することになります。

その母を駅に迎えに行った場面で、お母さんの姿を確認し、夕子がとっさに目を背ける場面で構成された予告編があって、ツイッターでは「わかる」「母的にはちょっとつらい」とバズっていましたね。


「あの予告を見て、夕子のことを名前ではなく『おねえちゃん』と呼んでいることに反応されていた方も結構いましたね。ワンシーンではありますが、いろんな捉え方や感じ方があるのだと改めて思いました」

夕子はまだ、母親というものを定義化できていない

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母、寛子を演じる石田えりさん。社交的で、誰とでも屈託なく話せる母を夕子が眩しく見つめる場面もある。

──面白いのは、何が原因で夕子がお母さんのことを重たいと思っているのかは、明確には描かれないことですよね。幼少期、シングルマザーのお母さんが働きに出る姿をじっと観察する夕子の場面があるので寂しさをこじらせたのかなといろいろ想像は膨らむんですけど。長女あるあるの物語かもしれません。

「杉田監督は、映画をご覧になる方に委ねたんだと思います。もともと脚本には説明的な台詞は書かれていませんでしたが、台詞ではなく伝わるだろうと現場でカットしていきました。

見方によっては社交的で世話好きな良いお母さん。そんなお母さんなのに違和感や苦手意識を感じる自分を責めていますし、感情をのみ込んでいますよね。帰宅が遅かったことをお母さんになじられ、心の中に溜めに溜めていた本音が溢れそうになる場面がありますが、やっぱり気持ちを伝えるのを諦めてしまう」

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「『お姉ちゃん』と呼ばれることや、長女としての期待に応えられなかったり、お母さんの理想の娘ではない自分自身を受け入れることができない。彼女の気持ちを思うと辛かったです」

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