――2013年の『スーパー劣等生』から、2019年の個展『ガズラー』に至るなかで、より観客のことを意識するようになったということですが、それはどういった部分なのでしょうか。
『ガズラー』は、英語で“がつがつ食う・がぶがぶ飲む”という意味があり、長年周囲へ打ち明けられなかった摂食障害をテーマにした個展でした。
ある意味、この個展を通して見にきてくださった方に自己紹介をする側面も強かった。でも、摂食障害の概要は本やネットで検索すればわかることです。
それに個人差があるものなので摂食障害とはこういうものだと知ったように説明することはしたくなかった。個人で伝えられることは摂食障害と共に生きる“心情”でした。
でも、それをそのまま晒しても暗くなってしまってつまらないし、伝わらない。
なので、ポップな“がずちゃん”というキャラクターを産んで、そのキャラクターが歩んでいく絵本のような一本の筋をつけることで、感情を共有してもらうことを思いついたのです。
普段はやわらかく表情豊かな“がずちゃん”が、自身の不安に呑まれると個展のタイトル絵でもある怪物『ガズラー』に変化してしまう、個展中盤の一枚絵を通して、見にきてくださった方にがずちゃんの感情の波を追体験してもらう構成の個展にしました。狼人間のような感じです。
――“ネガティブさ”と“ユーモアさ”のバランスは、光宗さんの持ち味という印象があります。
これは私が絵を描く時の好みでもあります。『ガズラー』の時が顕著でしたが、ネガティブな心情を伝えるならポップさのある絵が良いし、その逆も然りです。映画などでも、悲しいシーンで演者さんが大号泣しているより、無理して少し微笑んでいたりするほうが印象的というか、そういう感覚です。

「まわりからの評価に素直に向き合えるようになれた」―初の個展から9年目の光宗薫が振り返る、変化した“私”
何気なく始めた絵日記がきっかけで開催した初個展。ボールペン画家としての光宗薫が語る個展にかけた想い、そして過去に向き合えるようになった己の成長とは。画家としての成長や軌跡を辿る。(前後編の後編)
光宗薫ロングインタビュー後編
パーソナルな心情をどうお客さんに伝えるか…
試行錯誤のなか見つけた“ポップさ”


『ガズラー』(左)、『メロンタ・タウタ』(右)の画集表紙
――『スーパー劣等生』、『ガズラー』、そして2021年の『メロンタ・タウタ』も自分をどう捉え直すかというパーソナルな部分がキーでしたよね。

『メロンタ・タウタ』では、自分自身を船や部屋に例え、そのなかでさまざまな考えの生物が混在して共生している状態だと捉える作品や、初めて私の趣味嗜好を元にUMAをテーマとした展示になりました。
自分のことばかりだった視野が広くなり始めた真っ最中の展示だったように思います。

パーソナルな世界から次のステップへ…
個展を通して見えてきた未来
――そんな光宗さんのパーソナルな作風は、『メロンタ・タウタ』以後変化し、2022年の最新個展『SEMITOPIA』ではかなり明るく感じられました。心境の変化などはあったのでしょうか。
『ガズラー』を終えたタイミングで「他人語りが続いても見る側は胸焼けしてしまうだろうな」と思っていました。“自分の心情”や“自分の捉え方”というテーマで言いたいことは、現時点では大阪と東京で行ったこの2個展で充分描けた気がしました。
同じテーマを短いスパンで繰り返しても変化がないし熱量も落ちる。見に来てくださる方に対してもそれは誠実ではないと感じました。なので、『メロンタ・タウタ』からは、自分の趣味や好きなものを組み込んでいます。それが、明るくなったと映るのかもしれません。
――パーソナルな内容の個展はもうやらないのでしょうか?
どうでしょう、また思うところが心の中で溜まったりそこに変化があったらやるかもしれませんが、数年で考え方が変わったり、心情が激変したりすることって稀ですから(笑)。
――蝉、お好きなんですね。
はい! 私、蝉、大好きなんですよ。地上での活動日数が少ない分、儚い命というイメージを持っている方が多いのかもしれませんが、生態というよりも単純に見た目が“強そうでかっこいい”ところが好きです(笑)。
何かひとつ好きなものをテーマに個展を開催するならば絶対に蝉と決めていました! ちょくちょくLINEスタンプも作っています。

2022年個展「SEMITOPIA」展示作品の元絵
――蝉のお話になるとすごくイキイキされていらっしゃるので、愛が伝わってきました!
蝉とプロレスと、今はまっている『キユーピー 1000アイランドドレッシング』の話になると、ちょっとアツくなってしまうかもしれません(笑)。
学生時代から苦手だった“課題をこなす”ことに
もう一度向き合えるようになった

――毎日放送系のバラエティ番組『プレバト!!』に定期的に出演され、そこで毎回異なる画材を駆使して作品を発表されています。
今、絵を描いている人のなかには、「なんでそんなにすんなりと違う画材で描けるの?」「自分はできない」と感じる人もいると思います。そういう人に何かアドバイスはありますか。
私は以前までカラー作品はしたくないと避けていたのですが、番組内でカラーの水彩画を描かなければいけなくなって、試行錯誤して作品を制作するようになりました。その際に想像以上に褒めていただくこともあり、描ける・描けないは究極的には自分の問題と実感しました。
できない気がするものも一度試して、人に意見をもらう体験が『自分はこれができない』という悩みに対する一種の回答になるのかな。その際評価が悪かったとしても、それが気にならなければ続けられる訳ですし、続けていればできるようになるものが大半かなと思うので。
――出された課題に応えるというのは、光宗さんが学生時代に苦手としていたことそのものですよね。それに大人になってから再び向き合っているというのは、興味深いです。
確かに学生時代をはじめとした過去のリベンジマッチになっているかもしれません。でも、今の自分は課題に向き合える心の余裕があります。
昔のように「うまくできない自分に価値はない」と思い込むこともなく、何かができない自分もまぁいいやって少しは許せるようになりましたし、まわりからの評価に素直に向き合えるようになれたのは、すごく嬉しいですね。成長できたんだなぁって(笑)。
――今はタレント活動と並行して画家として生計を立てていらっしゃいますよね。
継続的に絵を描きながら生き続けるためには、制作したものでお金を稼ぐのが正道だと思っていますし、絵を通して社会と繋がりたいという気持ちが強いです。
――画家としてもうすぐ10年目に迫ろうとしていますが、昔と今で変わってきたことはありますか。
昔は引き篭って絵を描いていました。パーソナルなものがテーマだったので一人で完結できるということもありましたが、精神的な負担も大きかった。でも、近年は気分転換に外に出て友達と会ったり、好きなところへ行ったりして、孤独になり過ぎず描こうと意識しています。
一人にならなくても絵が描けるようになったので。
――最後に、今後画家としてチャレンジしたいことについてお聞かせください
約 2年後を完成目標にボールペンで描いた絵本を製作中なのですが、その間に展示や描くお仕事も引き続き行うつもりなので、絵本に活かしていければと思っています。
あとは、ライブドローイングにもチャレンジしたい。絵を描いている最中やそれが完成したときの盛り上がりって今は大体一人で感じるのみなので、その時間を見てくださる方と共有できたら嬉しいです。
――自分の感情を真正面から向き合い続けた末に、それを生かせる“絵”に出会った光宗薫さん。自由を手にした彼女が次にどんな世界を見せてくれるのか、楽しみだ。
取材・文/TND幽介(A4studio) 写真/井上たろう






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